街頭の大画面で天皇陛下のお気持ちを示したビデオメッセージが流され、通りかかった人たちが見上げていた  (c)朝日新聞社
街頭の大画面で天皇陛下のお気持ちを示したビデオメッセージが流され、通りかかった人たちが見上げていた  (c)朝日新聞社

 8月8日午後3時。この時間、いったいどのくらいの日本人がテレビに向かい、天皇陛下のメッセージを聴いたのだろう。「平成の玉音放送」と受けとった人も、「天皇陛下の終活」と受けとった人もいただろう。このお言葉はなぜ出て、どう受けとめられているのか。

「私が個人として、これまでに考えて来たことを話したいと思います」

 天皇陛下は、皇居・御所の応接室でひと言ひと言確認するように、ご自身の気持ちを丁寧に述べ始めた。

 この映像を見たある皇室担当記者は、どこか遠い世界のように感じた。それは、うっすらとついた染みのような、小さな違和感だった。

「平成の玉音放送」「天皇の人権宣言」。7月13日の「生前退位」報道から8月8日の歴史的な天皇陛下のお言葉の放映など一連の流れを、世間の人々は「高齢なのに働いて、お可哀想」と同情的に受け入れている。

 一方で、皇室担当記者の多くは、違和感をのみ込みながら報道を続けているという。

「個人として、と断りを入れながらも天皇としての一線をはるかに超えたものです。これまで傍らで取材し見てきた『無私の天皇』とあまりに異なる姿に、ぼうぜんとしました」

 天皇という立場上、皇室制度に触れることは控えながら──そう断りを入れながらも、実際には、生前退位を希望し、摂政や国事行為の臨時代行を置くことを否定した。九州大学名誉教授の横田耕一氏を始め、結果的に政治への関与の色が濃くなったことに、懸念を示す専門家は少なくない。

 さらに言えば、平成に入って天皇、皇后両陛下が新しい公務を増やしたが、加齢とともに負担の重圧に苦しむ結果ともなっている。

 なぜ、陛下は直接国民に告げる、異例のビデオメッセージ放映へと追い込まれたのか。民主党の野田政権下に退位の意向を伝えていたという報道もあったが、宮内庁幹部が「そんな事実は絶対にない」と強く否定するなど、情報が錯綜し混沌としている。皇族減少の解決策として当時提示された女性宮家案は実現する気配もない。

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