■夏目漱石


或る人に奴鰻を奢ったら、御蔭様で始めて旨い鰻を食べましてと礼を云った [虞美人草]
<やっ古>
寛政年間(1789~1801年)の創業で、勝海舟とジョン万次郎とが連れ立って来店したことがあると伝えられている。漱石は『彼岸過迄』にも登場させている。他に岡本綺堂、久保田万太郎も足を運んだという文士御用達店。鰻はしっかりと蒸すからだろう、とても柔らかいのが特徴。タレは甘さ控えめだ。うな重桜4100円、うなぎハム1050円
東京都台東区浅草1-10-2/営業時間:11:30~20:45L.O. /定休日:水(祝日の場合は営業)

■齋藤茂吉
あたたかき鰻を食ひてかへりくる道玄坂に月おし照れり
<花菱>
茂吉は、29年間の日記の中で鰻を食べた記述が902回も出てくるといわれる無類の鰻好きだった。最も気に入りだったのが、大正末期に道玄坂に創業した花菱で、青山の自宅から散歩がてらに来店、入り口そばのテーブル席で、一番小さな鰻丼(現在は鰻重になっている)を食べた。1日に2回訪れたこともあるという。鰻重中3564円、うまき1944円
東京都渋谷区道玄坂2-16-7/営業時間:11:30~14:30L.O.、17:00~21:30L.O./定休日:日祝

週刊朝日  2016年7月29日号