2008年のリーマン・ショックで株価は急落した (c)朝日新聞社
2008年のリーマン・ショックで株価は急落した (c)朝日新聞社

 サミットで安倍首相が用意した「参考データ」をもとに世界経済がリーマン・ショック前に似た危機的状況と主張したことが、問題になっている。

「リーマン・ショック前に似た危機」との説明を、経済の専門家も冷ややかに聞いた。スイス銀行出身の経済アナリスト、豊島逸夫氏は呆れて言う。

「唐突です。それほどの状況なのに、サミットはのんびりと日本流おもてなし。切迫していれば、寸暇を惜しんで話し合うはずです。米紙の報道は、リーマン前との話は議論に値せずといった論調。安倍氏がアベノミクスのためにサミットを利用した点を批判し、『ハイジャック』『歌舞伎を演じた』と報じています」

「危機」の説明に使ったA4判4枚の資料は、新興国の経済成長率などを示したグラフや表が並ぶ。メディアには日本語版が配られた。ただ、専門家から「インチキ」との声があがる。

 例えば、新興国への投資の鈍化を示すグラフ。中国経済の減速もあるが、米国の昨年末の利上げで、資金の行き先が新興国から米国へ移ったことも一因だ。つまり、米国の堅調な景気見通しと関連する。

 豊島氏は「欧州は難民やテロ、英国のEU離脱問題があり、米国はさらなる利上げで頭がいっぱい。世界には大きな問題がいくらでもある。なのに、増税延期という政治目標のため、サミットの場を使うだけでなく、都合のいい情報を切り取った」と批判する。

「コモディティ価格の推移」と題したグラフも、疑問だらけだ。シグマ・キャピタルのチーフエコノミスト、田代秀敏氏によると、これはさまざまな商品価格の値動きを総合した指標。53%超の重みを占める原油の値動きが影響する。

 原油価格は2008年夏に1バレル=147ドルの最高値をつけ、数年前まで100ドル超。その後20ドル台に急落したことが、不安材料に使われた。

 原油の需要は景気の拡大で伸び、悪化で縮む傾向がある。ただ、最近の原油安は供給面の要因も強い。

 10年前後から米国がシェールガス・オイルの生産を本格化した。生産量はサウジアラビアやロシアに匹敵し、「サウジアメリカ」の造語ができるまでに。新たな原油大国出現で供給が増え、値崩れした。

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