田代氏はグラフが06年以降なことにも注目する。「1980年からデータがあるのに、米国住宅バブルのピークの06年以降を描いている。これではバブル以前の状態への正常化も『危機』と映る」という。
資料は慌てて作られたのだろうか。細かなミスも目立つ。グラフは縦軸に「価格」の表記。グラフは05年を基準年(=100)とする指標のため、本来は「指数」だ。
田代氏は「本当に、経済産業省の関係者が作ったのだろうか。経済分析のプロのはずなのに、サミットで出す資料に学生並みのミス。てっきり、経済学の半可通、首相周辺をうろつく経済評論家が作ったのかと思いました」と笑う。
和製英語の「リーマン・ショック」も多用し、突っ込み所満載のこんな資料を、G7首脳に配ったのか。相手はオックスフォード大で経済学も学んだ英キャメロン首相や老獪(ろうかい)な独メルケル首相。違和感を唱える声もあがったというが……。
外務省に確認すると、書面でこんな回答が来た。
「各国首脳には(5月)26日の世界経済に関するセッションで英語の資料を配布しました」
では、記者に配った資料と全く同じ内容なのか。改めて電話で確認すると、
「お答えしたとおり、英語資料を配布したので。回答はそこまでです。サミットはクローズのセッション。そういう(実際に討議で使った)資料をメディアなどに配ることはないんじゃないでしょうか」とのこと。
田代氏は言う。
「キャメロン氏ら出席者は秀才ぞろい。指数の中身などを尋ね、原油が過半を占めることを知れば、『バカじゃないの』となる。だいたいG7の討議資料が当日のうちに報道されるなど前代未聞です。あれは実は、安倍政権が有権者向けに出したものでは」
安倍首相の「歌舞伎」の観客席にいるのはG7首脳だけではない。我々も座っているのだ。(本誌・鳴澤 大、亀井洋志、小泉耕平)
※週刊朝日 2016年6月17日号