被爆者の森重昭さんを抱き寄せるオバマ氏 (c)朝日新聞社
被爆者の森重昭さんを抱き寄せるオバマ氏 (c)朝日新聞社

 世界の人びとが固唾(かたず)をのんで注視していたオバマ米大統領の広島訪問がようやく実現した。大統領は原爆慰霊碑に献花し、「所感」を発表した。1967年から49年間にわたり新聞記者、さらにはジャーナリストとして、ヒロシマ・ナガサキに関わる報道に携わってきた、元朝日新聞編集委員の岩垂弘氏にとっては、広島での米大統領の言動は期待外れであったという。

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 米国は戦争で核爆弾を使用した唯一の国である。それゆえ、広島、長崎の市民は「原爆がいかなる惨害をもたらしたかを、米国の指導者はその目で確かめてほしい」と求めてきたが、歴代の米大統領が被爆地を訪れることはなかった。

 しかしながら、オバマ氏は現職の米大統領として初めて広島の地を踏んだ。訪問の目的が何であれ、この点については画期的なことであり、私はオバマ氏の決断に敬意を表したい。

 半世紀にわたって原爆被害の実相を見つめてきた私としては、オバマ大統領に二つのことを期待していた。

 一つは、原爆死没者、被爆者に「原爆使用は間違っていた」と謝罪してほしい、ということだった。なぜなら、広島、長崎への原爆投下は、非武装の市民に対する無差別の攻撃であり、大量殺戮(さつりく)と言ってよく、その被害は人類史上まれにみる残酷にして悲惨なものであったからだ。

 加えて、原爆の炸裂(さくれつ)によって生じた放射線により、被爆者は71年後の今も後遺障害に苦しむ。しかも、米政府は、広島と長崎で被爆者に対し検査をおこなったが、治療はしなかった。

 まさに、人道に反する行為である。このことは、国際司法裁判所が1996年に「核兵器の使用・威嚇は一般的には国際法・人道法の原則に反する」との国連への勧告的意見を発表したことでもすでに明らかだ。

 そもそも原爆投下は不必要だった。「日本本土での決戦を避け、戦争を早期に終わらせるためだった」というのが米政府の見解だ。だが、実際には、当時の日本軍はうち続く玉砕という名の部隊全滅や敗走、米軍機による日本本土の都市部や地方への空襲ですでに戦闘能力を失っていたのだから。

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