こうした経緯から、私としては、米政府は原爆死没者と被爆者に謝罪すべしと思い続けてきた。ところが、大統領の「所感」では、広島・長崎を含む第2次世界大戦における全ての戦争犠牲者への哀悼の辞が述べられ、被爆者への謝罪の言葉はなかった。その代わりだったのだろうか、大統領は慰霊碑の前で被爆者代表と握手したり抱擁し、その訴えに耳を傾けた。

 もう一つの期待は、核なき世界の実現に向けて具体的な道筋を示してほしい、ということだった。

 大統領就任後の2009年4月、オバマ氏はチェコ・プラハで、「核兵器を使用したことがあるただ一つの核保有国として、米国は行動する道義的責任をもっている」「だから、今日、私は明白に、信念とともに、米国が核兵器のない平和で安全な世界を追求すると約束します」「米国は核なき世界に向けた確かな歩みを始めます」と演説し、世界の人びとに感動と希望を与えた。

 しかし、それから7年。オバマ政権は核軍縮でこれといった業績を残していない。そればかりか、むしろ、核軍縮に後ろ向きの姿勢を取り続けてきたと言ってよい。例えば、96年に国連総会で採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)を、米国はまだ批准していない。すでに164カ国が批准し、核保有国のロシア、英国、フランスも批准しているのに、である。CTBTの禁止対象外の臨界前核実験も続けている。

 日本を含む各国の反核平和団体による核兵器廃絶運動が国際政治を動かし、ようやく国連という舞台で、核兵器禁止条約締結に向けた動きが具体化しつつある。今年2月からジュネーブで始まった国連の核軍縮作業部会がそれだ。が、米国をはじめとする核保有5カ国はこれをボイコットしたままだ。核不拡散条約(NPT)が、核保有国に対し誠実に核軍縮交渉を行うよう義務づけているにもかかわらず、である。

 プラハ演説は、ノーベル平和賞に輝いた。が、その後、行動が伴わず、いまや、すっかり色あせてしまった感が強い。だから、私としては、広島では、核兵器廃絶に向けた具体的なプログラムを示してほしいと願っていたわけである。

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