永田:アハハ。一方で超絶技巧のようなオノマトペもあります。「母亡くて石臼ひくくうたひをり とうほろ、ほほう、とうほろ、ほいや」。高野公彦の歌ですが、もう歌のほとんどがオノマトペね。もっとすごいのがあって、「ちりひりひ、ちりちりちりちり、ひひひひひ、ふと一葉笑ひ出したり神の山」。

知花:先生の奥様、河野裕子さんの歌ですね。すごく大胆!(笑)。これは笑い声のオノマトペですか?

永田:笑い声でもあるし、風が立てる葉の音でもある。彼女はオノマトペが得意だったから、すぐ言葉になっちゃう。こんなふうに使えたらいいよなと思うんだけど、なかなか、ね。

知花:ここまでではないにしても、オノマトペを使って、人にわかってもらえるのか不安になりますね。

永田:うん、難しいね。だから、オノマトペって作ろうとして生まれるものじゃなくて、どうにも説明できなくて、何だろうと思い続けて、ふっと湧いて出てくるものなんですよ。

知花:そうか、伝えきれないものを、飛び道具的に表現できるってことですね。

永田:あ、「飛び道具」はいいなあ! そうです。いいオノマトペはまさに一発で心を射止めてしまうこともある。あと、歌を作るときってどうしても言いたいことでぎゅうぎゅう詰めにしてしまうんだけど、オノマトペによって意味の縛りから自由になって、ゆったりする効果もあります。でもそのぶん文字数を無駄にする覚悟もいるわけ。空いているから埋めたようなオノマトペはダメで、つまらないですね。

知花:なんだか、やりそうで怖いです(笑)。

永田:まぁ、必ず使いたくなるときがくるから無理して使わないのも大事なことですね。

週刊朝日  2016年5月6-13日号より抜粋