井山には卓越した戦闘力がある。敵陣深く踏み込む度胸も満点で「過激」とも評される。「過激さを楽しんでいる?」と質問をしたことがあるが、「自重すると、そのあとの手に影響する。リズムが狂う」。自分の感性を信じ、ただ湧き上がる気持ちを盤上に表現する。

 七冠になってなお、「まだまだ未熟。少しでもレベルアップしたい」と語る視線の先には、中国や韓国の一流棋士と争う世界戦がある。10代や20代前半が優勝争いをする世界の舞台では、まもなく27歳になる井山は、やや年上の世代だ。

「究極的には世界で一番強くなりたい。ただ本当の世界のトップグループには自分はまだ入っていない」

 世界の潮流をみれば、井山にあまり時間は残されていない。妥協なき戦いをいま続けている。(朝日新聞記者・伊藤衆生)

週刊朝日  2016年5月6-13日号