一方で、待機児童問題を解消するために行政が保育園を新設すれば、子どもの声が騒音だと苦情が出る。2014年に東京都が62市区町村に調査したところ、約7割の自治体が子どもの声について「苦情があった」と回答したそうです。先日、ある自治体での反対運動を取材したのですが、高齢者から「保育園ができると土地の資産価値が下がる」という意見が出たそうです。「それでは年金は要らないんですね」と嫌みのひとつも言いたくなります。今の子どもたちを含め、若い世代の相互扶助で成り立っている制度ですからね。

 それでも、保育園問題が社会問題としてニュースで取り上げられるようになり、20年前に比べると、ずいぶんマシな環境になったと思います。当時は、子育てがしんどい、子育て環境に問題があると感じても、「私的な問題」とされて報道もされず、個人的に声をあげることもできませんでした。

 待機児童の問題を提起する母親を批判する人たちがいるのも、見方を変えれば、子育てへの注目が高まり、子育ては社会で行うもの、との認識が浸透してきた証しと言えるかもしれません。

週刊朝日 2016年4月22日号