「NATの分析結果はSPECTという脳血流検査の結果と8割がた一致していると思います。山本さんは、デイケアのトレーニングで改善に向かっていると思います。脳波検査だけでなく、MMSEなど三つの認知機能テストでも各項目とも毎回良くなっています。ADASで単語記憶が若干落ちているくらいです」

 この間(かん)、認知機能テストは半年に1回ほどの頻度で受けてきた。のべ5回か6回は行ったか。単語記憶はカードの単語を覚えてからしばらくして答えるテストだが、若干落ちていると言われた。学生のころから英単語の記憶が苦手だった。仕方がない。

 その他の記憶力は以前にくらべ落ちていなかった。自分でも自信があった。テストの直後に検査担当者からお墨付きをもらっていたし、何回もやるうち緊張もしなくなった。類似の設問もあり、回答を覚えてしまったからかもな。テスト当日の体調も良かった。そういう幸運に左右されたに違いない。

 これらのテストに加えて2月9日には、MCIスクリーニングと呼ばれる検査を受けた。MCIやアルツハイマー病などを血液検査で正確に診断できるもので、朝田医師が筑波大学附属病院にいたころから調べていたものだ。

 アルツハイマー病は「アミロイドβペプチド」が脳内に少しずつ蓄積することで起こるといわれている。この検査ではアミロイドβペプチドの排除や毒性を弱める機能を持つ血液中の三つのタンパク質を調べることによってMCIのリスクを判定するという。同時にアルツハイマー病の遺伝子を調べるApoE遺伝子検査も受けることが可能だという。

 マスコミも大きくニュースで扱い、ぼくも一度検査を受けたいと思っていた。朝田医師によると、このスクリーニング血液検査は12年ほど前から行っている。すでに数千の検査例で80%を超える正確度だという。

 精度をより高める研究を進めているという。血液検査でアルツハイマー病などが簡単にわかるようになれば、MRIなど時間と費用のかかる精密検査をしなくても診断に役立てることができる。非常に便利だ。

 検査の前に問診と過去の病気や現在服用している薬の種類と服用量など細かく調べられた。その後で血液採取。ぼくはほんとうにこわがりで、いつも針を刺されるところは見ないようにしている。ほんの1分ぐらいで採血は終わるというのに情けない奴、大げさなのだ。29日に検査結果を聞いた。朝田医師によると、

「MCIスクリーニングによると、判定は健常者とMCIの中間のBです。NATの脳波検査もよかったし、血液検査でも山本さんが改善過程にあることは推定できます。デイケアで2年間トレーニングに励み、生活習慣を改善したために判定がよくなったのかどうか。いくつか心配な点もありますが、腹をすえて予防に取り組んでいきましょう」

 判定Bは健常のAの下で「MCIリスクは低め」だが注意が必要というグレーゾーン。自分では「ここまで改善した」とホッとした気持ちだ。

週刊朝日 2016年3月25日号より抜粋