一躍、時の人となったドナルド・トランプ氏。なぜ彼が支持を得ているのか、ジャーナリストの田原総一朗氏は、アメリカに強烈なオバマへの不満があるという。

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 全米の10を超える州で2大政党の予備選・党員集会を一斉に行う3月1日の「スーパーチューズデー」で、共和党は実業家のドナルド・トランプ氏、そして民主党は前国務長官のヒラリー・クリントン氏が大きく前進した。特に、共和党のトランプ氏は7州で勝利した。

「トランプ現象」はもはやブームではない。保守層の中での確かな流れになりつつある。

 アメリカは民主党と共和党が交互に政権を担ってきた。近年は2期連続で同じ政党が大統領を務めることはあっても、3期連続はほとんどない。民主党のオバマ大統領は2期連続で大統領を維持しているので、次は共和党になるのが自然である。

 それに、いまアメリカ国民のオバマ大統領への不満は相当強い。オバマ大統領は「アメリカは世界の警察官ではない」と発言した。ブッシュ大統領(共和党)のアフガン戦争、イラク戦争がことごとく失敗したからだ。特に「独裁者フセインを倒せば、イラクは安定する」と言って始めたイラク戦争は大間違いで、イラクは逆に大混乱に陥り、「イスラム国」などという勢力まで生まれた。

 そこで、アフガン戦争にもイラク戦争にも反対したオバマ氏が大統領になったのだが、そのオバマ大統領は、シリア問題でもウクライナ問題でも、ロシアのプーチン大統領に主導権を握られて、アメリカの存在感が薄らいでしまっている。

 中間選挙では、上下両院ともに共和党が多数を占めた。

 その意味でも共和党にとって大きなチャンスなのだが、極端な扇動的な言辞を吐き散らすトランプ氏が快進撃を続けるのは、どうとらえればよいのか。

 
 メキシコとの国境に壁を造って不法移民を締め出し、イスラム教徒の入国を禁じるという露骨な排外主義は、民主主義の旗手を自負するアメリカ人には、本来ならばなじまないはずである。

 当初、トランプ氏を支持するのは白人の低所得階層で、いずれもテッド・クルーズ上院議員やマルコ・ルビオ上院議員などがトランプ氏を追い抜くもの、とアメリカのメディアも予想していたようだが、トランプ氏の支持層は白人層から、白人以外の層にまで広がっているようである。それだけ、アメリカの現状に強い不満を抱いている国民が多いということなのだろう。

 所得格差が著しく、1%の富裕層が60%の資産を独占し、特に大学を卒業したばかりの若い世代の失業率がほぼ10%に達していると言われている。そのために、民主党でも社会主義を唱えるバーニー・サンダース上院議員に若い層の支持が集中しているのであろう。

 2月下旬に、ワシントン・ポスト紙が「トランプ降ろし」を呼びかける異例の社説を掲げた。「共和党指導者よ、あなた方はトランプ氏阻止のため、あらゆる措置を全力でとるべきだ」と、強い言葉で訴えたものだ。それだけ、トランプ氏の暴言や型破りな言動と、それにもかかわらずトランプ氏が勝ち進んでいることに対する危機感が強いということなのだろう。

 それにしても、寛容さをなくした排外主義とナショナリズムの高まりは、アメリカだけの現象ではなく、ヨーロッパ各国にも見られる。そして、嫌韓、嫌中という排外ナショナリズムは、日本の保守層の中でも強まっている。

週刊朝日 2016年3月25日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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