日本認知症ケア学会のプログラムと参加証(撮影/写真部・岸本絢)
日本認知症ケア学会のプログラムと参加証(撮影/写真部・岸本絢)

 認知症早期治療実体験ルポ「ボケてたまるか!」の筆者・山本朋史記者が、仙台で行われた日本認知症ケア学会東北地域大会にMCI(軽度認知障害)の当事者の立場でパネリストの一人として参加した。そこで、若年アルツハイマー病の当事者として出席した仙台に住む知り合いの丹野智文さんに学んだこととは。

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 ぼくは丹野さんと一緒にプログラムの中のシンポジウム「認知症について私の想いを語る」で発言することになっていた。

 座長は松橋朋子・日本赤十字秋田短期大学介護福祉学科助教、コーディネーターが認知症介護研究・研修仙台センターの矢吹知之さん。昼食を取りながら矢吹さんたちと簡単な打ち合わせをした。まずぼくがMCI当事者として15分話す。次に丹野さんが「認知症と共に生きる」と題して15分、高齢の認知症当事者のNさんが15分しゃべってからディスカッションという段取りである。

 丹野さんは講演が多いからだろう、要領を心得ている。話す内容を紙にまとめたものを持ち歩いているという。指示された持ち時間によって臨機応変にその場で長さを調節する。原稿を見せてくれた。一字一句、よく考えて書かれた文章だった。

「こういう自前の台本があると便利ですよ。適宜カットして長短を調節できます。山本さんは原稿は作らないのですか」

 緊張して言葉が出なくなった経験が確かに幾度か……。それ以来、人前で話すときはiPadにその日に話す内容のポイントを書き留めておくようになった。iPadを開いて、この日新幹線の中で書いたものを見せようとしたが、メモの項目に入れたはずの文章が出てこない。間違えてパソコンのゴミ箱に入れてしまったのか。

 最近はこういったITミスがとても多い。もともとITオンチなのにスマートフォンでSNSだ、ラインだとかに手を出し始めている。送るべき相手を確認せずに別人にメールしてしまうことが続いた。

 送った相手が理解できずに、何のことかと問い合わせてきて初めてポカに気付くというわけだ。ITは非常に便利だが、ぼくみたいなミスの多い人間が扱うとヤバイ道具でもある。ひとつ間違うと大失態を演じることになる。

 件(くだん)の原稿だって、よく探したら、他のメモの末尾にくっついていたのだ。丹野さんに「こういうことばかりなんです」と言うと例の笑顔で励まされた。

「私だってミスは多い。でも落ち込まないようにしてるんです。とくに家族の前だと笑っちゃう。そうしたほうがいいんです。暗くしないですむ」

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