今季から本塁の危険な衝突を禁じる「コリジョンルール」が導入される。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、新ルールにより「無死一、三塁」でドラマが起きると分析する。

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 本塁上での走者と捕手の衝突プレーを禁じる「コリジョンルール」を改めて考えてみたい。この新ルールをめぐり、攻守にいろんな選択肢が出てくる。オープン戦や公式戦で、あっと驚くようなプレーが見られるかもしれない。

 新ルールでは、捕手が走者の走路をふさいではならない。走者が捕手に体当たりしてもいけない。従来当たり前だった捕手の「ブロック」が認められず、セーフになる可能性が高まる。

 これが攻守に与える影響を作戦面から考えると、一番興味深いのは「無死一、三塁」または「1死一、三塁」だろう。この場面の攻防は、今年の野球界の大きな注目点になる。各球団も、春季キャンプから守備や走塁の練習に力を入れている点である。

 昨年までなら「無死または1死一、三塁」のケースで、打順が回ってきた中軸打者は「最低でも外野へ犠牲フライ」と考えた。力のない打者でも「何とか野手の頭を越える打球を」と意識しただろう。

 だが、新ルールでは、ゴロでも本塁がセーフになる可能性は高い。この場面でパワーヒッターを代打に送るよりも、足が速く、ゴロを打てる選手を起用したほうがいいかもしれない。併殺の可能性も減るからだ。そう考えると、ベンチに入れる選手の顔ぶれさえ昨年までと変わってくるよ。

 
 同じ場面で、守備側も頭を使う。「1点を与えてもいい場面」と「絶対にとられてはいけない場面」で判断は変わる。後者なら、内外野の守備位置をこれまで以上に前進させるかもしれない。一番難しいのは二塁手と遊撃手だ。打球の強弱も含め、併殺を狙うのか、本塁に送球するのかの瞬時の判断が問われる。二遊間の守備力と判断力がクローズアップされるだろう。

 外野手も対応を迫られる。例えば「1死二、三塁」で外野に飛球が上がった際、捕球後に本塁での補殺を狙うのか、二塁走者のタッチアップによる三塁進塁を防ぐのか。

 救援投手に求められる資質も変わってくる。ゴロを打たれても、外野に飛球を打たれても、得点されるケースは増える。つまり緩急の差を生かして打たせてとるタイプの投手は、ピンチを背負ったときに失点する確率が高くなるわけだ。結局、終盤に1点を争う接戦になったときに求められるのは「三振がとれるかどうか」となる。球威があり、奪三振率の高い投手を救援陣にどれだけそろえることができるかがカギになる。

 ベンチ、グラウンドにいる全員が「次の1点の重み」を共有して戦うことが求められる。とりわけ監督には、試合の流れを読み取る力が必要だ。「1点を与えてもいい」のかどうか――その判断で、勝敗を決することが増えるだろう。セ・リーグの監督には新任が多く、外野手出身も目立つ。その点を考えると、内野守備や走塁のコーチの力量も問われる。

 当然だが、新ルールは12球団横一線でスタートするものだ。過剰な意識で積極性が損なわれてもいけない。シーズン序盤には、多少の失敗は覚悟してチャレンジし、その結果を検証しながら戦略を練っていくことが大切になるだろう。

週刊朝日  2016年3月18日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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