古巣・西武ライオンズの春季キャンプ視察を終えた、元エースで監督経験もある東尾修氏。選手たちの様子をこう分析する。

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 春季キャンプ視察で宮崎県を訪ねた。日南市南郷町でキャンプしている私の古巣・西武の話題から――。

 2月8日、高卒2年目を迎える高橋光成がシート打撃に登板していた。最速は143キロ。打者15人に対し、3安打3三振1四球だった。以前のような荒れ球でなく、ストライクゾーン付近にまとまっていた。昨年は、8月に4勝して月間最優秀選手(MVP)に選ばれた。勢いで投げていた印象もあったが、だいぶ落ち着いてきたよな。

 ただ、制球が安定すると、打たれやすくもなる。相手もデータをそろえて研究してくるし、ストライクゾーン付近の球ばかりなら、プロの打者はそれなりに対応してくる。壁にぶつかる局面もあるだろう。一流投手になるための道程だ。

 さらに難を言えば、下半身から上半身に力を伝えるテイクバックがスムーズでない。「ガク、ガク、ガク」と3カ所くらい、つっかかるのが気になる。ブルペン投球を繰り返す中で、どうやって解消していくか。制球力をつけたうえで、球のキレが加われば、もう一つ殻を破ることができる。

 田辺監督、潮崎ヘッド兼投手コーチが高橋を何戦目に起用するかも重要だ。勝ちをつけて軌道に乗せてあげないといけない。勝つことで心のゆとりが生まれ、投げ急ぐことがなくなる。投球フォームもゆったりし、球のキレもどんどんよくなる。年間ローテーションを守れるかどうかは、開幕からの滑り出しにかかっている。

 
 同じく4年目の相内誠もシート打撃で投げていた。カーブもいいし、もう少し線が太くなればおもしろい戦力になる。そして菊池雄星。彼は、はまったときの球のキレ、球威は申し分ないが、何かのきっかけでガタガタと崩れる。安定して高いレベルで投球できるかどうか。ドラフト1位の多和田真三郎は、右肩の状態がよくなれば、早くから1軍先発の機会があるだろう。

 中村剛也、浅村栄斗、森友哉の大阪桐蔭トリオを中心に、打撃はいい。投手にはチャンスだ。打線の援護をもらえる状況なら、首脳陣も我慢して投手を使ってくれる。

 常に優勝争いしていた1980~90年代と違い、Aクラス入りも厳しくなってきている。今ここで、もう一度Aクラス、そして優勝争いできるチームの土台を作らないと、西武の伝統は崩れてしまう。今年が勝負の年だと思うよ。

 全員がいい調子で開幕を迎えてもらいたい。4月終了時点でソフトバンクの背中を見ているようでは、とても王者を倒すことなんてできないよ。昨年は度重なる故障で5勝に終わった岸孝之を中心に、若い投手陣がいかに勢いをつけられるか。いつまでも「ソフト1強」では、ファンもつまらないはずだ。

 そうそう、ソフトバンクの松坂大輔については、ブルペン投球を2度見て、じっくり話をすることもできた。頭で思い描く投球動作をまだ体現できていない印象だった。長年、ひじや肩の痛みのためにフォームを崩して投げ続けてきた。立て直すのは容易ではない。もう少し時間をかけて見てあげたい。開幕前に改めてじっくりと見て、本欄でも取り上げたいと思う。

週刊朝日  2016年2月26日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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