西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、昨季1軍登板がなかった松坂大輔が復活する条件をこう述べる。

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 2016年の春季キャンプが12球団で始まった。巨人・高橋由伸監督や阪神・金本知憲監督をはじめ、若くてフレッシュな監督の動きが注目を集めそうだ。新監督は自分の色を出しやすい。失敗を恐れず、信念だけはしっかり持って、チームを導いてほしいよね。

 私は第2クールくらいから宮崎に行きたいと思っている。古巣の西武や3連覇を目指すソフトバンクがどんなキャンプをするのか楽しみだ。

 一番気にしているのは、やっぱりソフトバンクの松坂大輔だな。キャンプでは2軍選手の多いB組でスタートを切った。35歳のベテラン。焦る必要はない。状態を探りながらの調整になるだろう。

 大輔は11年にひじを手術した前後から肩も回っていなかった。昨年2月にブルペン投球を見たときにも、体全体を使えていないというか、しなやかさがなかった印象がある。

 昨年8月に右肩の手術をした際、本人から電話があったよ。そのときには「しっかり治して」という話しかしなかったけど、今は肩の不安は完全に消えているみたいだな。おそらく、昨年は日常生活でも肩の違和感を抱え、不安だったろう。

 ずっと抱えていた不安が消えたのだから、肉体面だけでなく、精神面でもよい方向に向かうんじゃないかな。おそらく力を入れた投球練習は2月中旬になる。ただ、体のしなやかさについては、キャッチボールやブルペン初期の段階でもうかがえるので、しっかりと見てみたい。

 何しろ近年は、肩やひじをかばいながら投げてきた。体全体の力をボールに伝える姿は久しく見ていない。

 
 その癖を直すのは容易なことではないよ。時間をかけながらサビを落としていく必要がある。3~4月を経て、シーズン終盤にどんな形になっているか。試合で結果を残しながら、長期的スパンで、少しずつ改善していこうと考えているはずだ。

 ソフトバンクには、大輔と同世代の和田も加入した。連覇を目指すチーム力を維持、向上させていくには「競争力」が必要だ。工藤公康監督は武田、バンデンハークの二枚看板を軸に、摂津や和田、大輔などのベテランをどう組み合わせるのか、考えどころだ。

 やっぱり和田や大輔が若手の壁にならないと。若い投手に「この壁を越えないと先発ローテーションに入れない」と思わせ、チーム内の競争意識を高めるキーマンになれるかどうか。

 私も、西武の現役時代に公康や渡辺久信が入ってきたとき、「負けてたまるか」という意識を持ったし、それが素晴らしい緊張感と張り合いになっていた。そうした「内なる戦い」のレベルが高くないと、常勝球団は築けない。

 同時に、ベテランが不調に陥ったとき、どう戦うかも大事だ。指揮官には「勝つため」でなく「勝ち続けるため」という視点も必要になってくる。

 大輔は昨年のオープン戦で、雪の降る屋外球場で投げることもあった。特別扱いをせず、登板機会を平等に与える意図が首脳陣にあったのかもしれない。でも、今回は正真正銘の故障明け。ドーム球場での登板を配慮してやってほしいね。

週刊朝日  2016年2月12日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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