事故を起こしたバスを調べる長野県警の捜査員ら (c)朝日新聞社
事故を起こしたバスを調べる長野県警の捜査員ら (c)朝日新聞社

「今回の事故については、今の日本が抱える偏った労働力の不足や過度の利益追求、安全の軽視など、社会問題によって生じたひずみによって発生したように思えてなりません」

 長野県軽井沢町でスキーツアーの大型バスが道路から転落し、大学生ら15人のいのちを奪った大惨事。亡くなった早稲田大学4年の阿部真理絵さん(22)の父親は通夜を終え、こうコメントした。父親が嘆きとともに絞り出した言葉は、安全が担保されない社会への告発のようだ。

 なぜこのような大事故が起きたのか。これまでの報道によると、事故を起こしたバスはギアがニュートラルの状態だった。ブレーキが利かず、時速約80キロ前後で転落した可能性が指摘されている。事故当時ハンドルを握っていた運転手(65)は、大型バスに「不慣れ」だったという証言もある。

 国土交通省は実態を調べるために、貸し切りバス事業者のうち、過去に問題のあった会社など約100社を調べる方針だという。

 しかし、首都圏の大手バスグループ会社でバスの運転手をしていたA氏(40)は、表情が硬い。

「一部を調べても意味がありません。大手、中小、どのバス会社の運転手もギリギリのところで生きているんですから」

 A氏がバス運転手をしていた3年ほど前、基本給は16万円。そんな薄給ではとても家族を養えない。残業を惜しまず、月額35万円を稼いでいた。

「案外、良い給料じゃないか」。そんな声が聞こえてきそうだが、この金額を得るために肉体を酷使する勤務をしなければならない。

 当時の勤務シフトを見ると、1週間のうち、残業を含めて16時間の勤務が3日、12時間が2日、8時間が2日といったサイクルだ。16時間勤務を3日連続というのもざら。公休をとれたのは12日目だ。

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