滋賀県の安土城跡に行くなら、その前に…
滋賀県の安土城跡に行くなら、その前に…

 戦国時代の武将・織田信長の子孫である織田家18代当主の織田信孝(のぶたか)さんは、スター化された信長よりも実像を知って欲しいという。

*  *  *

 安土城跡に行くなら、その前に、JR琵琶湖線を挟んで反対側にある滋賀県立安土城考古博物館へ行くことをすすめたい。ここの展示を見て、発掘前の状態や、関連する知識を得てから見ると、一層興味深く見ることができる。

 私はこの博物館の学芸員の高木叙子(のぶこ)さんとは随分前に知り合い、歴史に関して教えていただくことも多い。そのおかげもあって最近は、歴史学での信長への評価が変化していることを感じる。

 例えば、信長は中世を破壊し、近世を打ち立てた人というのが定説だったが、最近では、中世の枠組みの中で果敢に行動した人という説が出ている。また「天下布武」の「天下」は全国ではなく、京都を中核とした近畿圏を指したのではないかという指摘もある。信長は合理主義者だったが、決して無神論者ではなく、必要に応じて宗教施設を保護したこともわかっている。個別の出来事では、長篠の戦いでの鉄砲三段撃ちには以前から疑問が呈されているし、比叡山の焼き討ちもこれまで言われてきたほど大規模なものではなかった、とかいろいろある。

 ところが、こうした研究成果と反比例するように、近年のマスメディアの信長への評価は暴走気味に高い。信長人気を当て込んだテレビ番組の類も多く、高木さんのところにも、番組制作スタッフなどから、ワインを初めて飲んだのは信長だというのは本当ですか、といった問い合わせが来るそうだ。新しモノ好きの天才革命家というイメージが拡大し、何でもかんでも初めてやったのは信長にしたいらしい。「信長がワインを手にするまでには、いろいろなところを通過しているわけだから、日本初というはずはないでしょう(笑)」(高木さん)

次のページ