ジャーナリストの田原総一朗氏が、東日本大震災で多大な被害を受けた福島について、こう主張する。

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 福島はいつまでもカタカナの「フクシマ」でよいのか、と、あらためて考えさせられた。

 福島県の二本松で、日本青年会議所(JC)東北地区協議会主催のシンポジウムに出席してのことだ。テーマは「夢と希望に満ちた東北にする」であった。

 もちろん、東北地方は2011年の3.11の大震災で深刻な打撃を受けた。地震、津波、そして東京電力福島第一原発の重大な事故。特に福島では、放射能被害で住んでいた町や村に帰れない人々が10万人以上いる。直接、間接的に原発事故の被害を受けている人はおびただしい。

 だが、福島の人々の発言を聞いていて、私は冒頭に記した気持ちになったのである。

 東京のマスメディアは、とかく福島の悲惨さを強調する。原発事故の被害を大きく報じ、福島の悲惨さを報じるのがジャーナリズムのあるべき姿だと考えているのだ。

 だが、実は除染は確実に進んでいるし、農産物は米を含めてすべて検査をしているのだが、検査ではじかれるものはなくなった。生産量も回復している。だが、問題は値段が回復しないことだ。福島の農産物は放射能で汚染されているという風評が、買いたたきの材料になっているのだ。福島の悲惨さを報じるマスメディアが、風評被害を高める役割を演じているのである。

 パネリストの一人が、まったく原発事故の影響のない会津に、修学旅行生が戻ってきていないことを嘆いた。「福島県だから」ということで敬遠されているようだ。

 
 またパネリストの一人が、なかば冗談めかした口調で、「東北地方に必要なのは復興ではなく新たな創造なのだ」と言った。東北地方は大震災以前からすでに斜陽になっていて、復興は斜陽に戻るだけだから意味がないのだ、というのである。

 宮城県の山元町でイチゴ農場を経営する岩佐大輝氏が、同じ意味のことを言った。

 彼は東京でIT企業を経営していたのだが、3.11大震災で実家に戻り、実家を含めて山元町の多くが津波の被害を受けたのを知って、山元町の復興を決意したのだ。山元町のメインの農業はイチゴの栽培だった。だが、実は山元町のイチゴ栽培自体が時代に取り残されたような斜陽状態であり、彼は「復興」ではなく、日本一のイチゴ農場を「創造」するのだと言った。

 さらに彼は「創造には破壊が必要なのだが、すでに破壊されているのでイノベーションを起こしやすい」とも言った。また、「山元町のイチゴ農場は時代遅れで生産性が低かったので、業績を上げるのが楽だった」と、あっけらかんとしていた。そして、見事にミガキイチゴという、1粒千円で売れる一流ブランドをつくり上げたのである。

 その意味では、福島は原発事故で破壊され、不幸ではあるが、創造の前提ができているとも言える。

 現に、福島県ではいま、世界最先端のロボット研究拠点をつくろうという「イノベーション・コースト構想」が進んでいる。具体的には福島第一原発に廃炉研究の拠点を設置するとか、楢葉町に廃炉作業用のモックアップ(原寸模型)を建設してロボットの試験をしようとしているのだ。福島県を最先端技術の拠点にする計画だ。マスメディアは復興の妨害をしないように気をつけるべきである。

週刊朝日 2015年9月25日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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