「日本の財政状況は極めて危険」と常々主張している、モルガン銀行東京支店長などを務めた藤巻健史氏は、今後起こり得るだろう財政破綻に備えてドル保有をすすめる。

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 私が昨年所属していた参議院文教科学委員会の委員長だった自民党の丸山和也参議院議員からファクスをいただいた。丸山先生は、ご存じの方も多いかと思うが、議員になる前は、日本テレビ系「行列のできる法律相談所」のレギュラーメンバーだった弁護士だ。「昨日の参議院財政金融委員会で麻生太郎大臣と黒田東彦日銀総裁に質問するフジマキさんの様子をインターネット中継で拝見しました。文教科学委員会の時とは違って迫力ありましたね(笑)」

 一応、私は金融業界出身。そりゃ、文教委員会の時より、迫力あって当然です。さらには、先日、エレベーターホールで一緒にいた家内アヤコに向かって、丸山先生は「文教委員会ではフジマキさん、存在感ありましたよ」とお世辞を言ってくださった。いただいたファクスとは矛盾する感(「迫力無し」vs.「存在感」)があるが、このお世辞はうれしかった。なにせ、家内の前だったから。味噌汁の中にネクタイをひたしてしまったり、食べこぼしをする私しか家内アヤコは知らない。私にも「日常生活とは違った一面がある」ことをアヤコも少しは認識してくれただろう。

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 私が、日本の財政状況に極めて強い危機感を持っているのを読者の皆さんはご存じだろう。「政治家になったからには『駄目だ、駄目だ』とばかり言っていないで建設的な財政破綻回避の方法を考えろ」とよく非難される。しかし、残念ながら「時すでに遅し」で、悪性インフレは、不可避だと思っている。だが、日本はそれに伴う円の大幅安により、いずれは再生する。だからハードランディング時の生き延び方を考えることが肝要だ。私が、読者の皆様に「ドルを保険の意味で買っておくとよいですよ」と言い続けるのは、それが理由だ。

 
 実は国がやるべきこともある。私が「駄目だ、駄目だ」としか言わないと思っている方も認識を改めていただきたい。ちゃんと国がやるべきことも考えている(苦笑)。

 それは「政府の保有する約1兆2600億ドルの外貨準備に、今は絶対に手を出さない」ということだ。ハイパーインフレが起きれば食糧、原油、医薬品など国民の最低限の生活を確保する物品の輸入が困難となる。紙切れのような価値しかなくなる円紙幣では外国はこれらの物品を売ってくれないからだ。非常時には、外貨準備の約1兆2600億ドルでこれら物品の緊急輸入ができる。

 ちなみに、今年は日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)が続出している。日本郵便が豪トール・ホールディングス(総合物流)を6200億円で、明治安田生命が同業の米スタンコープ・ファイナンシャル・グループを6200億円で、東京海上ホールディングスも同じく同業の米HCCインシュアランス・ホールディングスを9400億円でM&Aした。

 私は、日本企業が「自社を守るために外国企業という外国資産を買っている」とみる。個々の経営者が、鋭い嗅覚で、円だけを保持する危険性を感じているせいなのではなかろうか?

 これほど日本の財政状況が悪いのだ。個人であれ、国であれ、企業であれ保険の意味でドル保有を増やしておくことは、極めて重要だと思う。いざという時に、政府・日銀・民間が今、保有している合計約4.6兆ドル相当の外貨が日本人を守る。危機が顕著になっていない現在、荒唐無稽に聞こえるかもしれないが。

週刊朝日 2015年9月18日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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