斉藤さんが性犯罪の加害者更生に関心を持ったのは、前述の奈良市での事件がきっかけだった。逮捕された小林薫元死刑囚(死刑執行済み)は、過去に幼児への強制わいせつなどの前科があった。斉藤さんは言う。

「もともと私はアルコール依存症の患者のケアに関心がありました。その中で、3年ほど酒を飲んでいなかったのに、事件を起こした人がいた。それが小児性犯罪だったのです。依存症患者の本当の問題は、酒をやめてから出てくることが多い。出所後も、地域での受け皿となり、ケアを続けていくことが必要だと思っていました」

 クリニックの更生支援策の一つに、公判前から被告人にかかわる「司法サポートプログラム」がある。通常はクリニック内でグループセッションをすることが多いが、関東地方の拘置所や警察署に出向くこともある。被告人を性犯罪と向き合わせることが目的だ。

 性犯罪を防ぐためには、加害者自身が自分の性格や行動パターンを見極め、自己管理し、実践に移すトレーニングが必要となる。そこで、「なりたい自分」をイメージし、そのために必要な具体的な方法を思い浮かべる。

 例えば、痴漢や盗撮、公然わいせつ、強制わいせつなどの罪名を書き込む。そうした犯罪を繰り返さない自分を目標にする。

 実際に自らの犯罪のパターンも思い浮かべる。場所は電車内か路上か家屋内か。時間帯は早朝か夕方か深夜か。どんな状況だったのか。電車内の痴漢であれば、混雑していたかどうか。そのときの感情も、できるだけ細かく書いていく。

 これら一連の作業は、リスクマネジメントプラン(RMP)と呼ばれている。RMPは、何度も更新していく。自分の行動や反応のパターンを徹底的に理解し、ストレスをコントロールしていくためだ。

 また、拘置所や留置場での面会でも、直接的な指導や助言をする。しかし、面会時間は1回あたり15~30分程度と限りがあるため、手紙のやりとりもする。文章を通じて、自分の行動を何度も考えさせるためだ。

「RMP作成で大切なポイントは、被害者が読んだらどう思うのか、ということです」(斉藤さん)

週刊朝日 2015年9月18日号より抜粋