日本で唯一無二の芳しい味…
日本で唯一無二の芳しい味…

 フード&ワインジャーナリストの鹿取(かとり)みゆきさんが、日本ワインを紹介する。今回は北海道浦臼町の「鶴沼ブラン 2013(白)」。

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 北海道浦臼町に、日本一広いブドウ園がある。青い空のもと、延々と続くこの畑は、北海道ワインが管理する自社農園、鶴沼ワイナリーだ。敷地面積は447ヘクタール、実に東京ドーム95個分の広さである。

 土地の開墾から始めたのは1974年。美しいサンゴ礁で知られる沖縄・渡嘉敷村前島出身の今村直さんら7人が、原生林を拓き、ブドウを植え付けた。北国の鉛色の海を初めて目にしたとき、今村さんは「地の果てに来た」と感じたという。最初の年にドイツから輸入した6千本の苗木は枯れ、残ったのはわずか300本。夏は汗まみれ、冬は慣れない雪に埋もれ、収穫にこぎ着けたのは、5年後であった。

「鶴沼ブラン」の原料は、当時も植え付けたゲヴュルツトラミネール種。優雅なライチ香は、この種特有のものだ。とろっとした質感に涼やかな酸がメリハリを与えるこのワインは、一度飲んだら忘れられない。日本で唯一無二の芳(かぐわ)しい味は、この畑で汗水流してきた人たちの苦労の証しだ。

(監修・文/鹿取みゆき)

週刊朝日 2015年9月11日号