「難しいのと簡単なもの、どっちがいいですか?」

 迷わず「難しいもの」。内心は恐る恐る、両手を箱の中に。指に短い棒のようなものが当たった。乾電池の感触だ。太さからして単3電池。ピンポーン。意外とわかるものだ。指の感覚はありがたい、触覚は頼りになると知った。4番打者の男性は小さな金平糖だったが難航した。

「最初は砂だと思った。皿の上に小さなものがのっている、でもイメージがわかない。なめたらすぐにわかったのに……」

 初めてのブー。悔しそうだ。このあとに、ミニトマトと卓球のラケット、塩、豆腐など、ありふれているのに意表をつくけったいなものが続々。

 正体がわかっていても、名前が出ないこともあった。からかい半分にワーワー言う仲間のヒントで気付く人もいる。手触りで物を特定することは、脳の刺激になるという。

 ぼくのチャレンジ2回目は硬貨。「ぼくの好きな現金です」と答えると、すかさず「幾らですか」。

「100円玉と10円玉が二つ。120円」

 正解だったが、「山本さんは小銭が好きなんだ」。

 当てたのだから褒めてほしかった。ションボリ。「小物ですから」と返すしかなかった。

 圧巻は、というか気の毒だったのは納豆を出された男性である。真剣な顔で、箱の中の皿に盛られた納豆を両手で掴む。グチャグチャという粘っこい音がこちらにまで伝わる。しかし、答えは出ない。指で何度も確かめて2分後に、「納豆かな」。

 納豆は皿からあふれ出て、箱の中に散らばっていた。男性の手は納豆まみれ。ティッシュでは簡単には拭ききれない。「洗ったほうが早いですよ」と言われて洗面所に駆け込んだ。

週刊朝日 2015年8月21日号より抜粋