「だけど、スパイスやハーブは、まだどんなものかよくわからず、使いこなせなかったんです」

 そんなとき、そこにいてくれたのが、ケチャップだった。阿古さんは言う。

「和食をイメージするとき、トマト味のものってなかなかないですよね。乳製品とならぶ、洋風の味の代表だったんです。ウスターソースもそうですが、これさえあれば、簡単に憧れの洋風の味が決まり、しかも風味が強い。ケチャップとソースは、便利な洋風調味料の両雄だったんです」

 加えて、余ったご飯の活用術としても、チキンライスは優れていた。

「今は“チン”すればいいだけですが、電子レンジが家庭に普及するのは、80年代になってから。余ったご飯の再活用法として、ちょうどよかったんです。しかもケチャップがうまく味をマスキングしてくれて、古くなったご飯もおいしくいただける。肉や野菜を入れれば、それで一品できあがってしまう。便利な料理だったと思います」

 歴史的にみても、洋風チャーハンだった。

(太田サトル)

週刊朝日  2015年8月21日号