政府の説明でも矛盾が出ていた安全保障関連法案。作家の室井佑月氏は、その強行採決にこう異議を唱える。

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 安全保障関連法案が、衆院平和安全法制特別委員会で強行採決された。

 安倍自民が掲げる「積極的平和主義」とは、いったいなんなのか? どういった場合、他国を武力で守る集団的自衛権の行使が容認されるのか? この国の存立危機事態に、ホルムズ海峡の機雷除去は含まれるのか。政府はそれだけは例外としているけれど、なぜそれだけ例外となるのか?

 そして、そもそもどうしてこんなに急いでこの法案を通さなきゃならないのか? 安倍さんが米国議会で、この法案の成立を勝手に約束してきたからか? 自国の国民を後回しにして。

 政府は、衆院特別委で116時間以上審議したというけれど、審議すればするほど、「安保法案は理解できない」という国民は増えていった。なにしろ、政府答弁にぽろぽろと矛盾が出て来る。

 国民の半分以上が反対で、8割以上が「政府の説明が足りない」といっていて、多くの憲法学者たちと、歴代の内閣法制局長官たちが、この法案は違憲だといっている。

 けど、政府はかまいやしない。こういった政治を独裁政治というんじゃないか。恐ろしい。

 メディアへの圧力も効いているのか、NHKは7月15日の委員会審議を中継しなかった。

 
 ほかのメディアは言い訳程度に扱ったくらい。安保の問題と、新国立競技場の問題を、一緒くたに放送したりした。

 あたしが驚いたのは、日本スポーツ振興センター(JSC)が、政府が安保法案を強行採決した翌日の16日午前から、新国立競技場のデザイン選考で審査委員会の委員長を務めた建築家、安藤忠雄氏の会見を入れて来たことだ。

 会見で安藤氏は、「なぜあんな金額(2520億円)になったかわからない」としながらも、あくまでザハ案を推した。

 となると、国民の8割以上が反対しているバブリーなザハ案推しは、森喜朗氏と安藤忠雄氏と石原慎太郎氏くらい。石原さんは政界を引退したわけだから、残りは森さんと安藤さん。いかにもな悪役だ。

 安倍さんがこの二人を外し、「見事な決断」というシナリオか。それで安保でついたケチをちゃらにしようってか。

 森さんは安倍さんの親分だし、安倍さんは野党から新国立競技場について質問されても、ずっと、

「今から手直ししていると2020年のオリンピックに間に合わない」

 そう誤魔化してきた人なんだけどね。

 案の定、17日付の安倍さん応援新聞、読売新聞に、

「新国立競技場 首相、変更不可避と判断」

 という記事が載っていた。

 なんだかなぁ、もう。それに、テレビで安保法案を少しでも扱うなら、今揉めているのは他国を武力で守る条件についてなどであって、愛国心云々をただ熱く語るだけの人をコメンテーターに呼ぶのはやめてほしい。誤解が広がるから。

週刊朝日 2015年8月7日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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