突然急落し、危険視されている中国株。しかし、そこから学ぶ点があると、“伝説のディーラー”と呼ばれた男、藤巻健史氏は指摘する。

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 先週は、最近起きている中国株安が日本の市場をも揺さぶった。日本株が下落するのは致し方ない。日本にとって中国は輸出額においては米国に続き2位、輸入額においては1位の重要な貿易相手国だからだ。中国経済が逆資産効果(資産価格の下落が個人消費を減速させる)で落ち込めば、中国を貿易相手としている日本の会社の業績は落ちる。

 しかし、「リスク資産を避けた資金が、安全資産に向かう」という理由づけで円や日本国債が買われるのならば、その動きは長期的には続かない。

 そもそも、実質的に財政ファイナンス(国の財政赤字を中央銀行の貨幣増刷で賄っている)を行い、財政破綻を回避している日本の通貨や国債は安全資産どころか世界有数の危険資産だ。

 そしてもう一つ重要なポイントは中国は元安を死守するために資本規制をしている点だ。外国人から中国の金融資産への投資はほとんど行われていないし、中国人も海外金融資産への投資は簡単にはできないはずだ。だから危機の世界的連鎖は起きない。もし米国がリーマンショックのような危機に襲われれば、米国人も、そして日本人を含む外国人も一斉に米国内の金融資産を売却して他国へ移すだろう。そうなれば米国債は売られ、ドルも売られる。しかし中国に危機が起きても、資本規制の結果、そのような動きは起きえないのだ。それにしても、この中国株安から教訓を得ることは重要だ。

 
 中国では経済の減速にもかかわらず、昨年夏から株価が急上昇した(上海総合株価指数は今年6月までの1年間で2.5倍)のは中国政府が「株高政策」を取ったからだと言われている。日本で86年から88年まで、消費者物価指数(CPI)が1%以下で低位安定していたにもかかわらず狂乱経済が発生したのは、土地と株価がバブル化し、そのおかげで土地と株を持っている人たちがお金持ちになったつもりで消費を増やしたからだ。資産効果というが中国政府はそれをまねしたのだろう。一方、バブル懸念で株価が下落を始めると、今度は消費を下押しし、それを見て株価が更に下がるという悪循環が始まる。これが逆資産効果だ。この1カ月で30%も落ちた中国株価が今後、中国人民を苦しめるかもしれないのはこのメカニズムだ。資産価格の上昇・下落はこれほどまでに景気に影響を与えることを学ぶべきだ。

 学ぶべき第二は、中国は10%の経済成長から減速したといっても、今のところ7%もの成長が見込まれている点だ。今回の株安でさらに減速するにしても、日本の経済に比べればはるかに良い。名目GDPが中国に抜かれて世界3位になったと大騒ぎしたのはたったの5年前にすぎない。それが今や、中国の名目GDPは日本の約2.2倍だ。これは資本規制をかけながらも、人民元を極めて安い水準に保っていたからだ。1980年に1人民元は150円もしたのに、今や20円ぽっちだ。

 120円のドル/円が900円になったと同じマグニチュードだ。日本が円高を放置し、経済を長期に低迷させたことに学び、中国は米国からの強烈なプレッシャーにも動じずお茶を濁す程度にしか元を切り上げてこなかった。これが、今までの中国の大きな経済成長の一番の理由だったことを忘れてはならない。

週刊朝日 2015年7月24日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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