アクションシーンでは、70代とは思えないキレの良さも見せる。藤さんといえば、“日本で身体を鍛えた俳優のはしり”とされるが、若い頃、撮影所のトレーニングジムに足繁く通ったのにはある理由があった。

「仕事がなかったからです。一生懸命汗を流して、頭を空っぽにする。そうやって時間をつぶすことが、自分の中の焦りを消してくれる唯一の方法というか、当時はひとつの心の支えだったんでしょうね」 

 そんな不遇の時代も経験しているが、だからといって、来た仕事は何でも受けているわけではない。

「僕にとって一番怖いのは、飽きちゃうことです。いろんな俳優がいていろんな考え方があっていいと思うので、これは僕個人の考え方に過ぎないけれど、どんなに“当たり役”と言われた役でも、続編をやるのは嫌ですね。それは断ります。飽きることが怖くて、できないんです」

 その表情は豊かで、動きも決まっている。いるだけで並々ならぬ色気が漂ってくるが、「エロスって何?『この人と何か起こりそう』って相手の気持ちを騒めかせること? ……だとしたら、僕にその素養はない(笑)。結婚は一回しかしてないし、今も続いてますからね」と藤さん。

「北野映画を観ると、どの俳優もみんないいでしょう? どの俳優もいつもと違って見える。今回の龍三だって、“情けなくて愚かで滑稽で、愛しくなるキャラクター”なんて言ってもらっても、僕らがそんな芝居をしているわけじゃない。監督の語り口が、そう感じさせているんです」

週刊朝日 2015年5月1日号