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 大切な肉親を見送ることになった際、その臓器が誰かの体で生き続けることを選択する家族がいる。臓器移植には親族など生体ドナーから受ける場合と、脳死や心臓死のドナーから受ける場合があるが、今回は後者について考えたい。

 日本の臓器移植法が成立、施行されたのは1997年。09年7月17日に法律が改正され、翌年7月17日に施行。ここで「親族に優先的に提供できる」「脳死下で本人の意思がわからなくても、家族が承諾すれば臓器提供できる」「15歳未満も臓器提供ができる」という要件が新たに加わった。

 法改正を受け、年間数例にとどまっていた脳死下の移植は30~50件になった。日本臓器移植ネットワークによると、国内の臓器提供者の数は、改正法施行から14年末までの約4年半で215件。その前は11年間で86件だったため、増えてはいるものの、18歳未満は改正法施行後で9例、6歳未満でみると今年1月に3例目が出たばかりだ。

 日本の臓器移植件数は諸外国と比べても圧倒的に少ない。100万人あたりの日本の臓器提供者数は12年が0.9人。スペインの34.8人、アメリカの26.1人、韓国の8.4人と比較するまでもない。

「心臓移植の場合、原則的にはドナーの体重は移植者の3倍まで認められていますが、移植を待つ心不全の子どもたちはもともと体が小さく、10歳でも体重15キロ程度。必然的に子どもからの心臓移植を待つしかなくなるんです」

 そう話すのは小児の心臓移植事情に詳しい大阪大学医学部附属病院未来医療開発部の福嶌教偉(のりひで)医師だ。

「小児の移植が少ないのは事実。でも今の日本で、9人もの家族が提供を決意したことに、頭が下がる思いです」

 では、なぜ国内の臓器提供者が増えないのか。

 13年に公表された世論調査では「臓器移植に関心がある」と57.8%が答え、06年の59.0%とさほど変わらない。一方、「意思表示カードに記入している(提供しないとの意思表示も含む)」は4.8%から12.6%へ増加。「提供したい」と答えたのはいずれの年も4割だった。臓器提供の意思表示は専用のカードのほか、免許証や保険証の裏にも記載できるようになっている。

 にもかかわらず臓器提供者数があまり増えない理由として関係者が真っ先に挙げるのは、脳死判定基準の厳しさだ。過去の“事件”に端を発しており、結果、日本の脳死判定は世界一厳しくなったという。

 いわゆる「和田移植」と呼ばれる一連の疑惑だ。68年に札幌医科大学の和田寿郎医師が日本で1例目となる心臓移植を実施した。だが、その後、ドナーの男性に十分な救命措置がとられていなかったのではないかとの見方が浮上、和田医師らが刑事告発された。嫌疑不十分で不起訴となったが、これが大きなしこりを残した。

 ちなみに現在は厚生労働省の研究班が作成した「法的脳死判定マニュアル」に沿って行われるが、「6歳以上では1回目の脳死判定が終了後、6時間以上開けた時点で2回目の判定を実施」「移植に関わらない2名以上の判定医で実施」など諸外国にはない細かな規定が特徴となっている。

 この判定基準が、マンパワー不足にあえぐ医療機関の足かせになる。マニュアル上では主治医以外に2人の常勤医(脳神経外科、神経内科、救急などの専門医や認定医の資格を持ち、かつ脳死判定に関して豊富な経験がある)が脳死判定に関わらねばならない。前出の福嶌医師が言う。

「そうなると臓器提供に最低でも3名の医師が必要になる。医療機関によっては、ここで人手を費やすと通常の外来業務や救急患者の受け入れなどに差し障りが出てきてしまうんです」

週刊朝日  2015年3月20日号より抜粋