エジプトで行われた首相演説について国会で質問を受けた安倍首相。その答弁に、作家の室井佑月氏は驚いたとこういう。

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 先週号で、卑劣なテロ集団の日本人殺害事件における疑問を書いた。この国のこの先がどうなるのか、テロと闘うとは具体的にどのようなことであるのか、というような。

 そのことは、「テロと闘う」「罪を償わせる」、そう発言した安倍首相に聞くしかないじゃん。

 この国の指揮をとっているのは政府であるから、政府に対しての質問になる。

 が、そういう疑問を少しでも口にすると、

「今、政権批判をするのは、イスラム国を利するだけ」

 などといって非難されてしまう世の中の雰囲気が出来上がっている。

 なぜ、そうなるのか。

 きっと、一部の声のでかい人がそういいだして、結果、その声に政府は助けられ、そしてそういう政府の立場を慮(おもんばか)ってマスコミが忖度(そんたく)し、巷に変な空気が出来上がってしまった。

 この国の国民なら、国がこの先どうなってゆくのか、心配して当たり前じゃないの。それを他国の総理に聞けっていうのか。おかしくないか? ……そう思っていたら、2月3日の参議院予算委員会で共産党の小池晃さんが、質問してくれた。

 小池さんはテロは許されないと断言し、中東への支援金についての安倍首相の言葉が、人質の殺害が予告される前と後とで、微妙に違うことを指摘した。殺害予告前のエジプトでおこなったスピーチでは、拘束された日本人に危険がもたらされるとは考えなかったのかと。つまり、この国の代表ならもっと言葉を選ぶべきだった、もちろんそれはこれからも、というような発言をした。

 すると、安倍さんは、

「小池晃さんのご質問は、まるでISILに対して、批判はしてはならないような印象を受けるわけでありまして、それはまさにテロ集団に屈することになるんだと思いますよ」

 と答えた。会場はざわついた。委員長により、一旦、審議は止められた。

 そりゃあ、そうだ。一国の総理が質問には答えず(いつもこの人は答えないけど)、自分(安倍さん)のやり方に反対する人はイスラム国の味方、というネトウヨみたいなことをいいだしたんだから。

 中継の音声は止められたが、映像はそのままだった。答弁者側に座っている人がニヤニヤ笑っているのを見た。

 なんでこの混乱で笑えるのか? 仲間なら安倍さんのそういうところをなぜ諫めない? そういう態度は、YouTubeに公開された殺害映像を喜んでいる心ない人たちとおなじように思える。それはあたしだけだろうか。

 安倍さんがいうように、国際的な役目を果たすというのもこの国にとって大事なことだ。しかし、今の方向で突っ走れば、日本のため海外と渡り合っている民間人を危険に晒すことにならないか。日本の総理として、日本人の未来を真っ先に考えて欲しい。ちなみに、こんな意見も一部の人からは「売国」とみなされる。

週刊朝日  2015年2月27日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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