文筆家・北原みのり氏は渋谷で聞こえてきた「監禁」という言葉に、思わず凍りついたという。

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 渋谷のスクランブル交差点で信号待ちをしていたら、ビルの大画面映像に4人の女性(服を着てないように見える)が並び、「彼女はこの街のどこかに監禁されているという」という声が聞こえてきた。え? と思わず凍ると、続いて「事件を解くのはあなた!」「スマホをタッチして操作開始!」とはしゃいだ調子の声が次々に街に響いた。

 その場でスマホで調べると、渋谷の街を「事件現場」にしたてたイベントの宣伝だった。“監禁されたアイドル”を探すために、協力店でスマホで何して何するという、アイドルのプロモーションと町おこしを兼ねたゲーム感覚のイベントみたいなもの。

 イベントを紹介するHPには、こんなことが書かれていた。

「渋谷の街にふらりと来た人が、謎解きという面白い遊びに触れれる(原文ママ)ように」「謎解きを通じて、街全体を面白いって思ってくれるといいな」

 ……これ、“愉快犯”からのメッセージですか?

「監禁」という、実際に何度も起きている酷い犯罪を「ゲーム」にできる感覚、それを大音量で街に流す感覚、しかも「楽しもう」という感覚。企画の段階で、「まずいでしょ」と言う人がいなかったのが異常だ。

 今年の夏、オタクの祭典「コミケ」で集英社が配った瞬間冷却剤が物議を醸したことを、思い出した。美少女アニメが印刷されたそれを、集英社はツイッターで「殴ると冷たくなる美少女(瞬間冷却剤)配布しております!」と紹介した。

 ロリコン表現と暴力表現に寛容なこの国で、女への暴力をファンタジーとして楽しむ癖が、男たちの脳内に定着してしまったのだろうか。悪気ない無邪気さを含め、ポルノ惚けとしか言いようがなく、女にとっては地獄だ。しかも私のような女が性表現について批判をしようものなら、「表現の自由だ!」「実在の被害者いるのか?」「心の中に踏み込むな!」と憲法で守られた“オレのチンコ”をアピールするので、本当に女は辛いよ……。

 街中で「女が監禁された」という言葉が楽しげに流れる社会、あんた達に本気で聞きたい。何故、楽しめる?

週刊朝日  2014年11月28日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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