地下2千メートルのシェール層までつながるパイプ (c)朝日新聞社 @@写禁
地下2千メートルのシェール層までつながるパイプ (c)朝日新聞社 @@写禁

 住友商事は2015年3月期、米国のシェールオイル開発で1700億円の損失を計上する――。

 このニュースが報じられた9月29日以降、シェール関連の企業に投資する某運用会社には、問い合わせの電話が相次いだ。

「運用は大丈夫なのか!?」「損はどれくらい出たのか!?」

 ただ、この投信の投資先は開発企業ではなく、ガスを運搬する海運や貯蔵するタンクなどを扱う「川下」の企業だったため、大きな影響はなかったそうだ。

 結果的に個人投資家の早とちりだったが、問い合わせたくなるのも無理はない。最近、シェールガス・オイルの開発で損失を出す企業が続いているからだ。

 伊藤忠商事は14年3月期に290億円、大阪ガスも約290億円の損失を計上している。そのほか、三井物産なども過去に損失を出した。日本企業だけではない。英・オランダ系のロイヤル・ダッチ・シェル、英BPも損失を計上した。

 住友商事は「現在、資源事業全般のリスク管理を見直している」(広報部)。

 一体、何が起きているのか。そもそも、シェールガスとは、地下にあるシェール[頁岩(けつがん)]と呼ばれる岩石の層に閉じ込められているガスのこと。天然ガスの一種だ。この層に含まれるオイルはシェールオイルと呼ばれる。

 頁岩は掘りにくく、なかなか開発が進まなかったが、技術力の進歩で10年ごろから一気に表舞台に出てきた。原油に比べて格安なため、次世代のエネルギーとして脚光を浴びている。

「広大な土地に大きな坑井(井戸)がドーンとそびえ立っていてね。その下では何千メートルにもわたって、管が何本も延びて採掘しているっていうんだ。それを運営する技術者は数人でいいというから、効率がいいったらない」

 そう熱っぽく話すのは、今年、米国の掘削現場を訪れた石油業界関係者。

「米国の貿易赤字は減少傾向だし、建設業労働者は増加している。これからの米国はシェールで力強さを増していくと実感したよ」

 国際エネルギー機関(IEA)によると、米国は30年代にはエネルギーをすべて国内で賄えるようになるという。

 まさしく夢のエネルギー。宝の山ならぬ、宝の“地下”を目指して、日本企業も次々と参入した。日本にも「バラ色の未来」が来ると信じて。

 だが、コトはそう簡単ではなかった。

 シェールに詳しい和光大学経済経営学部の岩間剛一教授が解説する。

「地下の探査技術は進歩してきましたが、100%成功することはありません。油田開発の成功確率は20%程度。5本井戸を掘って成功するのは1本だけです。シェールの開発の場合、確率はもっと低くなります」

 バラ色のシェールだからといって、「当たる」確率が高いわけではないのだ。ちなみに、20世紀初頭、油田開発は千本掘って成功するのは3本だけだった。

 これだけではない。「価格や生産量の下振れ」「人件費の高騰」も起きている。

 業界担当のアナリストが説明する。

「価格が下振れるだけで大きな損失が発生することはまれ。これに加えて、思っていたほど生産量が上がらず、人件費などのコストが高くなってしまう。こうしたことが一度に重なって膨大な損失となるケースが多いようですね」

 シェールは生産量の予測が容易ではない。「経験値」がモノをいうからだ。

 経験値では、長らく地域密着で開発に取り組んできた地元の中小企業のほうが優位に立つ。

 石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部上席エコノミストの野神隆之氏は言う。

「石油などの油田では、ある程度、開発や生産の手法ができあがっていますが、シェールは“鉱床”ごとに異なる地質状況に対して『これで大丈夫』という方法が十分に確立できていません。技術者の経験が頼りになるのです」

 ほかにも経験は必要だ。地主との交渉になる。シェールを開発するには地主の許可を得て、代金を支払う。「外様」よりも、地主との円滑な関係ができている地元の中小企業のほうが安く抑えることができる。

 人件費も高騰している。今年、実際にシェールガスの開発現場を訪れたエコノミストによると、開発現場で働くトラックの運転手の賃金は、なんと、時給130ドル(約1万4千円)だったという。

週刊朝日  2014年10月31日号より抜粋