俳優・仲代達矢「果たして天職だったのかと思うことも」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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俳優・仲代達矢「果たして天職だったのかと思うことも」

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 今や80代でも現役で、新たな一歩に挑む人たちがいる。初めての一人芝居に挑戦する俳優の仲代達矢さん(81)は胸に秘めた思いをこう語る。

*  *  *
 今年の12月で82歳になります。19歳で俳優座養成所に入り、俳優座に在籍、42歳の時に俳優を育成する「無名塾」を亡き妻の宮崎恭子と共に作りました。気づけば役者生活も60年を超えた。早いですね、私も相当な高齢者ですよ。

 そうは言っても人生でやり残した仕事がまだ20作品もあって、そのひとつが今回挑戦する一人芝居の「バリモア」。ハリウッドの名優、ジョン・バリモアの栄光と没落を描いた芝居です。15年前に東宝のプロデューサーから英語の台本を手渡され、ずっと大事にあたためてきて、今回自ら企画しました。

 バリモアは「ドン・ファン」や「グランド・ホテル」などの映画に出演しながら、シェークスピアの舞台にも何本も出演した。私も160本の映画に出ながら、シェークスピアの舞台に立ってきたので、境遇が少し似ていると思いました。

 この芝居ではバリモアが「リチャード三世」を演じながら、「オセロ」や「ハムレット」の台詞を思い出すシーンがあります。私もそれらを演じてきましたが、芸能一家に生まれたバリモアと違い、若いころはボクサーをしたり競馬場で働いたり。「お前、顔がいいな」なんて周りにいわれてその気になって(笑)、役者の道を目指したのです。

 この仕事は、定年がない代わりに明日はどうなるかわからないシビアな世界です。「バリモア」に、こんな台詞があるんです。

<芝居ってのはありとあらゆる芸術の塵芥(ちりあくた)を集めて回るクズ屋だ……やがて大衆にも飽きられる>

 役者は売れる時と売れない時の落差が大きく、年をとれば演じられる役は少なくなる。研究生時代の仲間である佐藤慶や宇津井健もすでに逝き、自分も死に近づいているのは確か。演じながらふと人生を振り返り、果たして天職だったのかと思うこともあります。

 バリモアと決定的に違うのは、彼が4度も結婚したこと。私はたった1度ですから。いや、野望はあったかもしれないけれど(笑)。妻が病気で先に逝った時はショックで後を追いたいなんて思ったことも実はあります。でも私が芝居を続けることは妻の希望でもあり、なんとかやってきました。

 正直いうと、今がもっともしんどいかもしれません。1時間40分の長丁場の芝居なので、なにしろ台詞の量が膨大。舞台袖にプロンプ(台詞を導く役)はいますが、相手がいないで演じることがこんなに難しいとは思わなかった。昔は数週間で覚えられたことが、今では数カ月かかる。悪戦苦闘ですよ。

 この前、知り合いの落語家に一人芝居をするんだと言ったら呆れられてね。

「この世界では60歳を過ぎたら新作はしない。エラいことですなあ」と。

 私が子どものころは、娯楽といえばラジオだけ。そこに耳を付けて落語や講談など語り芸を聴いたものですが、あの時に夢中になった落語のように、一人芝居に“笑い”の要素もところどころ入れたいですね。

「バリモア」には、

<夢が後悔に代わるまで人は年をとらない>

 という台詞もあります。私もこの芝居がうまくいったら次につなげたい。いや、すでに来年、再来年と別の芝居をする予定で、劇場だけは押さえているんですよ。それまでしっかり生きないと。

 とにかく、私の“人生初”の一人芝居をご覧になった中高年や、同世代の方が、「仲代もがんばっているなあ」と、ひとりでも多く思ってくれるようにチャレンジし続けたいです。

週刊朝日  2014年10月31日号


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