財政赤字が悲惨な状況にある日本。“伝説のトレーダー”と呼ばれた藤巻健史氏は、日銀の国債購入で破綻が露呈していないだけだと痛烈に批判する。

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 先日、テニスで素晴らしいショットをしたら皆に「錦織選手の3歳のときのショット並みに素晴らしかったよ」と褒められた。いい気になって帰宅し、テレビを見ていたら、「錦織選手は5歳からテニスを始めました」ですと。トホホホホ。それにしても錦織選手の活躍は素晴らしかった。全国民が興奮しただろう。来年はぜひナンバーワンになってほしい。

 外資系銀行に勤めていたとき、私がテニスの個人レッスンを受けた話を部下のスギノモリ嬢にしたら、「わ~、似合わない。フジマキさんは、トレーディングをするとき、誰の言うことも聞かないじゃないですか。そんなフジマキさんがテニスのレッスン? コーチの言うことなんか絶対聞けないと思うけどな~」。

 たしかに。それが高校時代にいつも東京都大会1回戦負けの私と、マイケル・チャン・コーチを信頼しUSオープン準優勝を勝ち取った錦織選手の差かもしれない。え? それだけじゃない? そうですよね~。

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 錦織選手は残念ながらナンバーツーで終わったが、日本には断トツで世界ナンバーワンのものがある。残念ながら財政赤字の悲惨さだ。私は日本はすでに財政破綻していると思っている。

 破綻をカムフラージュしているのは、日銀による異次元の量的緩和だ。破裂しそうに大きくなったおできの割れ目を日銀が国債購入というガムテープで必死になってふさいでいるだけだ。

 昨年までは国民が銀行に預金し、そのお金で銀行が国債を購入していたので、国は財政赤字を国民からの借金で賄っていたことになる。この状態は国が借金をしているものの、財政が破綻しているわけではない。

 しかし昨年前半で、この構図は終わった。銀行は国債を売り越している。いまは、国民の生産活動の成果ではなく、日銀が紙幣を刷ることで財政赤字を賄っているのだ。

「昨年4月から今年末までに長期国債を99兆円買い増します」という異次元の量的緩和のコミットメント(約束)により、財政破綻が露呈していないだけだ。日銀が買わなくなれば、誰も国の財布を満たす人がいなくなり、公務員の給料も年金の半額負担も、地方交付税も払えないことになる。

 だから昨年4月に黒田東彦総裁が「戦力の逐次投入はしない。これがすべてだ」とおっしゃったにもかかわらず、第2弾の異次元の量的緩和を打ち出すと思う。もう国債を買わないとなると日本経済はその段階でTHE ENDだからだ。

 しかしそのとき、マーケットはどう反応するのか? 無事通過しても第2弾のコミットメントが終われば、第3弾を打ち出すのか?

 そんなときに、来年度予算の概算要求が100兆円を超えるという。単年度予算が赤字ということは誰かが国債を買い増さなければならない。政府は日銀がいつまでも国債を買い続けられると思っているのだろうか? 何を考えているのだ! 日銀以外の国債の引き受け手がおらず、日銀が買い増しを続ければ日本中が紙幣で埋まり貨幣価値の下落、円暴落となる。

 私の友人いわく「財政がわかっている識者はもう策がないことがわかっている。だから行きつくところまで行くしかないのかな?」。怖い。ドルを買って自己防衛が必要だ。

週刊朝日  2014年10月3日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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