自衛隊に“萌える”女子が増えている。

「この2、3年、少女が戦車を操縦する学園アニメ『ガールズ&パンツァー』や軍艦が女性に擬人化されたゲーム『艦隊これくしょん~艦これ~』など、軍事を題材にしたサブカルチャーが流行しています。いわゆる“萌えミリタリー”と呼ばれるジャンルですね。その影響を受けて、本物の自衛隊を追いかける若い女性が急増したんです」

 ミリタリー情報誌「アームズマガジン」編集長の岩田友太氏は、ブームの現状についてこう語る。公開訓練や航空祭に行けば、カメラ片手に演習を追いかける女性が必ずいるという。

 彼女たちは自衛隊のどんなところに夢中になっているのか。8月24日に静岡県御殿場市で開かれた、陸上自衛隊による国内最大規模の公開訓練「富士総合火力演習」で取材を行った。

 戦車やヘリコプター、火砲などを使った迫力あふれる訓練風景を間近で見ようと、会場を訪れた観覧者は約2万9千人。近年、富士総合火力演習はチケットの入手が難しい人気イベントになっており、2010年には約11倍だった抽選倍率が今年は過去最高の約24倍を記録している。

 観覧席はどこも人と熱気であふれており、おみやげや食べものを売る屋台の前には行列が。おみやげには「自衛官三姉妹」という少女のアニメ絵がパッケージに描かれた乾パンが売られており、会場で配られるパンフレットには「ガールズ&パンツァー」の広告が載っていた。“萌えミリタリー”の影響は自衛隊の広報活動にも垣間見える。

 女性の観覧者は全体の1割程度だろうか。女性だけで観覧しに来たと思われる団体も多い。東京都に住む30代前半のAさんは、訪れた理由をこう語る。

「私の目当ては戦車。興味を持つようになったきっかけは、『ガールズ&パンツァー』です。『戦車道』といって、女子高生が戦車を武道として嗜(たしな)む世界観が斬新でした。公開訓練は、戦車などの装備品が持つ無駄のない機能美を生で見られるから、おもしろいですね」

 また、静岡県富士市に住む20代後半のBさんは、隊員へのあこがれをこう語る。

「きっかけはテレビドラマにもなった自衛隊が舞台の小説『空飛ぶ広報室』(幻冬舎)を読んだこと。恋愛シーンが多くて隊員がかっこよく描かれているので、ときめきました。現実の隊員にも、たくましくて誠実な魅力を感じます」

 Bさんは出会いを求めて、小学校時代からの友人のCさんを連れて、隊員との合コンによく参加しているのだとか。Bさんの影響で興味を持つようになったCさんも、自衛隊への熱い思いをこう語ってくれた。

「私には彼氏がいるんですが、隊員との人脈が欲しくて合コンに参加しています。隊員と仲良くなれば、公開訓練を優先的に観覧できると思って。彼氏は私が自衛隊を追いかけていることを知っているので、『だめ』とは言いません。いまは戦闘機に興味があって、中でもF-2が好きですね。音を聞くと胸が高鳴ります。私にとって自衛隊は、やっと見つけた趣味なんです」

 自衛隊に“萌える”女子たちは、純粋に個人的な趣味として、装備品や隊員を追いかけているというのだ。アニメやゲームを研究の対象としている美術評論家の黒瀬陽平氏はこう分析する。

「サブカルチャー経由で自衛隊に興味を持つようになった女性のほとんどは、国防やナショナリズムなどの社会的な文脈には関心が薄い。訓練や航空祭を見に来る女性にとって、自衛隊はファンタジーの対象にすぎません。装備品へのフェティシズムも隊員へのあこがれも、“萌えミリタリー”というコンテンツの延長上で、娯楽として健全に消費されているだけです。マニアックな趣味を持った女性が目立つ時代になったということ以上、いまのところ深い意味はないでしょう」

 しかし、子供のころから軍事や銃器を趣味として追いかけてきた前出の岩田氏はこう忠告する。

「自衛隊の本質には、人を殺傷するための武力だという側面があります。私としても、かっこよさだけでいたずらに趣味と言っていいのか、悩む気持ちは常にある。自戒を込めて言いますが、その本質を見失わないように、冷静に付き合っていきたいですね」

(本誌・上田耕司、小泉耕平、福田雄一、牧野めぐみ、山内リカ/今西憲之、黒田 朔、三杉 武、横田 一)

週刊朝日  2014年9月26日号