認知症になったら、どんなふうに過ごし、どこで暮らせばいいのか。ちょっとした物忘れから、徘徊、そして寝たきりへと症状が進むなか、その時々に必要なケアを受けたい。自宅から通える施設の上手な利用法を考える。

 区内の自宅に住み、認知症で要介護1の鈴木サワさん(80)に「物盗られ妄想」や「徘徊」など中度の症状が現れるようになったのは2年半前。以後、夫の紀義さん(74)がつきっきりで支えるが、心身ともに疲労困憊が続く。

 以前、「週1回でも、どこかで預かってもらえないか」と悩み、意を決して居宅介護支援事業者と契約したことがある。そこで、サワさんが週2回、近所のデイサービスに通う計画を立ててもらった。しかし、何日か通ったものの挫折し、途中で自宅に帰ってきてしまった。

 デイサービスでは高齢者20~30人がゲームなどのレクリエーションに興じるが、協調性を失うという認知症の特性で、場の雰囲気になじめなかったのだ。それからはデイサービスに行くのを嫌がった。さらに「ケアマネジャーが作成したサービスを利用しなかった」として、居宅介護支援事業者との契約が解除されてしまった。

「時々、ものすごい剣幕で怒るときがある。手がつけられなくなるので、その場を離れ、怒りが収まるのを待つしかないんです」(紀義さん)

 サワさんは2年ほど前、一人で電車に乗り、千葉県船橋市の交番で保護された。転んで骨折していたが、船橋までどうやってたどり着いたのか、どこで転んだのか、一切覚えていなかった。その後も外出しては転倒を繰り返した。始終、徘徊しては警察に保護され、時に激高する妻から紀義さんは目が離せなくなった。次第に心がすり減り、そばにいられなくなった。なるべく顔を合わせないよう朝から近所の図書館などで時間をつぶし、昼と夕方だけ自宅に戻るようにして、同居生活に耐えた。

 このように老夫婦世帯でどちらか一方が認知症になると、介護サービスと切り離された途端、孤立しがちだ。だが、サワさんの場合は幸運だった。

 デイサービスを拒絶したなどの情報が、行政の出先機関である「地域包括支援センター」(墨田区は「なりひら高齢者支援総合センター」)の主任ケアマネジャーの志賀美穂子さんに伝わっていたのだ。頻繁に自宅を訪ね、二人の身を案じるようになった。

「紀義さんが相当疲れていたのでとても心配になりました。共倒れにならないためにもサワさんになんとか介護サービスを受けてもらいたかった」(志賀さん)

 志賀さんは8月上旬、夫妻と主治医、民生委員などを交えた「ケア会議」を招集し、サワさんに「複合型サービス」を提案した。認知症の人が地元に住み続けるための“切り札”と期待される、2012年に始まった介護保険のサービスだ。サワさん夫妻が見学した施設「すこやかの家業平」で受けることができた。

 少し詳しく説明しよう。「複合型サービス」とは、「通い」を中心に、必要に応じて「泊まり」や「訪問介護」「訪問看護」を組み合わせて受けられるサービス。06年の介護保険法改正により、その市区町村に住む人限定の「地域密着型サービス」の一つとして始まった「小規模多機能型居宅介護」に、医療がプラスされたものだ。

 サワさんのように認知症でも寝たきりでないと要介護度は低く判定され、使える介護サービスは限られる。軽度ならデイサービスなどの「居宅サービス」を利用しつつ在宅生活も可能だが、「徘徊」「暴力」などの中度の症状が出てくると、家族は目が離せなくなり負担が増える。そうした事態に対応する「地域密着型サービス」の中で、とりわけ「複合型サービス」に期待が高まっている。

 まず大きな利点は、要介護1以上から利用でき、医療のケアが受けられること。料金は定額制で、要介護1なら月額の自己負担が1万4千円ほど、要介護5でも3万5千円ほど。

 また、要介護1でも独居で認知症の場合は週5回までデイサービスに通える。定員25人以下、毎日デイサービスに受け入れる定員は15人以下と、少数で家庭的な雰囲気だ。

 ただし欠点もある。今年5月の時点で全国に131カ所しかない。まだ実施していない市区町村が多いのだ。

週刊朝日  2014年8月29日号より抜粋