作家の室井佑月氏は、「お国のため」と頑張っている人たちが報われない世の中だと嘆く。

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 少し前のことになるが、7月8日付の朝日新聞の文化面に、「グローバル化『国家復活』導く」という記事が載っていた。グローバル化が言われる今の世で、フランスの人類学者で歴史家のエマニュエル・トッド氏は、「今、復活しているのは国家だ」と指摘している。

「先進国はすでに消費社会の段階を終え、低成長時代に突入している。各国が直面する国内外の経済対立をどう克服するかが課題だ。グローバル化の進展は、一つの世界像への収斂ではなく、国内や国家間の対立が際立つ世界を意味する」

 と彼はいっていた。

 グローバル化とは国境が溶けていくようなものだと思っていたが、どうやら違っているのかもしれない。

 あたしはこの記事を読んで、ほかの記事を思い出していた。

 それは一昨年読んだ、安田浩一さんがSAPIOに書かれた、「ネトウヨとは何か? これは若者たちがのめり込む『愛国という名の階級闘争』だ」という記事だった。

 安田さんはネット右翼と呼ばれる若者にインタビューしている。若者は抱えきれない日常の問題に憤りを持っていた。

「憤りの根底にあるのは異文化流入に対する嫌悪と、外国籍住民が日本人の『生活や雇用』を脅かし、社会保障が“ただ乗り”されているといった強烈な被害者意識でもある。―中略―雇用不安も経済的苦境も福祉の後退も―中略―『在日が日本を支配している』といった荒唐無稽な主張さえ、『奪われた者』たちにはもっともらしく耳に響く」

 と安田さんは記事の中でいっていた。

 そういった若者たちに、あなたたちを被害者にしてしまうのはいったい誰なのかを本気で考えてもらいたい。階級社会の中の底辺に押し込めようとしているのは、いったい誰なのかを。

 グローバル化は国家同士の争いじゃない。ほんのわずかの富める人間の覇権活動だ。

 権力者は「お国のため」という言葉を使う。力のないものにとって「お国のため」という壮大なプロジェクトに乗ることは、ちっぽけな自分を忘れていられる気持ちいいことかもしれない。

 しかし、それは国のためじゃないとしたらどうだ?

 国が国際的な競争社会の中で勝ち進むためといったら、それは多国籍軍である大企業が安価な労働力を求めているためだと思っていいかも。この国の平和を維持するための集団的自衛権行使とは、あなたたちの命を差し出しても一部の人間が海外でいい顔をしたり(それはこの国で安定的な力となり得る)、外交で楽をしたいからなのかも。

 時間のある方はぜひ、「イラク戦争から帰った米兵による『衝撃の告白』」という動画(grapee.jp/6711)を観て欲しい。 

「お国のためなんだ」と思って戦場に行った兵士が、そうじゃなかったと気づき、ほんとうの敵について語っている。我々の命について考えさせられる。

週刊朝日  2014年8月8日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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