“伝説のディーラー”として名をはせた藤巻健史氏。本誌連載『虎穴に入らずんば フジマキに聞け』で国の借金について、こう持論を展開する。

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 参議院決算委員会の打ち上げ懇親会で元巨人軍のエースで現在、自民党議員の堀内恒夫氏と歓談した。「歴代で最も偉大な投手は誰だと思うか?」と聞いたところ、「金田正一投手」との回答。「なにせ400勝もしたのですよ。400勝とは毎年20勝ずつしても20年もかかるのですからね」とのことだった。

 ところで日本には1025兆円(2014年3月末)もの借金がある。1025兆円とは毎年10兆円ずつ返しても100年以上かかるのだ。大変な借金額だ。ちなみに10兆円は5%時代の消費税収額とほぼ同額だ(12年度は10.3兆円)。

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 いま、政治家やマスコミは、「外交」や「憲法」で熱くなっている。もちろん極めて重要な問題だ。しかし迫り来る最大のそして喫緊の問題は財政破綻だと、私は思っている。安倍政権から、そして政治家からもその危機意識が全く感じられないのは驚くほどである。

 参議院の「デフレ脱却および財政再建調査会」での某議員(注:私ではありません)の発言は注目に値した。「先日、スイス人と話をした。彼は『日本はもう破産するだろう』と言っていた。こんなに財政状況が悪いのに政府や政治家に危機感が一切ないからだ」

 しかしそのような発言にもかかわらず、6月13日(金)に行われた調査会の中間報告にはがっかりした。本会議で「財政破綻させる気か」と野次ろうかとも思った。さらなる財政出動、量的緩和を要求しているからだ。

 だが、堀内氏との会話が頭をよぎり、自重した。堀内氏は「議員になったら野次を飛ばさないんですね。堀内さんのことだから選手時代は野次将軍だったでしょう?」との私の問いに、「いや~、野次るのは2軍だけ。レギュラーは野次らないの。その後のビーンボール(投手が頭近くに投げるボール)が怖いからね」と答えられたのだ。品のない野次を飛ばす議員には傾聴に値する話だ。「あんたは2軍だよ」と野次を飛ばしたくなる(ン、品がない?)。

 本会議では野次らなかったが、原案を承諾するための持ち回り審査の際は、「この内容では到底同意できない」と抵抗した。この提言が政策に反映されてしまったら、財政が持つわけはない。ゼロ金利の今でさえ税収の半分は、国債費(元本償還と利払い)に消えている。これ以上、借金が膨らんだり金利が上がったりすれば、金利支払いのせいで国は資金繰り倒産をしてしまうからだ。そして調査会のメンバーも「能天気だった」と糾弾されてしまうだろう。「金融の専門家」を自負する身としてはこの報告書に同調するわけにはいかない。

「全員一致という前例に固執する必要なし」と強く主張し、「この提言は全員一致のものではない」との付記をつけ加えていただいた。私の意見はこの提言と真逆で、しかも、かなり過激である。したがって私の意見が提言に取り上げられるはずはないのだが、「私の意見が過激なのではなく、今の財政状況自体が過激なのだ」という点、「解決策には過激なものしか残っていない」という点を政治家に知らしめる努力をするつもりだ。そうしなければ過激なばらまきが続いてしまう。

週刊朝日 2014年7月4日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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