命にかかわる病気ではないが、日々の生活の質を大きく左右する女性の「尿失禁」。受診をためらう患者も多く、内科や婦人科を訪れても正しい診断を下されないことがあるという。医師向けに治療方針を制定している、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟医師に聞いた。

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 尿失禁は、40歳以上の女性の44%にみられる症状です。そのうち週に1回以上の尿漏れに限定しても、患者数は約600万人にものぼります。

 多くは加齢、出産、特に難産や多産の経験、肥満などをきっかけに発症します。肥満は大きなリスクのひとつで、これを解消するだけで尿失禁が治ることもあるほどです。

 尿失禁を大きく3タイプに分けると、咳やくしゃみ、重いものを持った拍子など、おなかに力を入れた際に漏れてしまう「腹圧性尿失禁」が5割、急に尿がしたくなりトイレまで我慢できずに漏れてしまう「切迫性尿失禁」が2割、そのどちらの症状も持ち合わせている「混合性尿失禁」が3割となります。

 同じ尿失禁でもこのタイプが違うことによって治療法が大きく異なるので、まずは自分がどのタイプであるのかをしっかり診断してもらうことが重要です。

「混合性尿失禁」は3割も占めるにもかかわらず、残念ながら医師の間でも認知度が低いのが現状です。症状が両方に当てはまる人は医師に伝え、より困っている症状の順に治していきましょう。

 治療の選択肢がいくつかある中で、服薬は一過性の効果にすぎません。ただし、一過性であることを利用して、酔い止めを飲むように「どうしても今日は……」というタイミングで飲むという方法もあります。

 また、どのタイプの失禁にも効果があるのが、骨盤の底にある筋肉を鍛える体操です。すぐに効果の出るものではありませんが、続けていくことで完治する率は高くなります。

 尿失禁は日本人特有の病気ではありません。しかし、海外の女性と比べて受診率がわずか1~2割です。「恥ずかしい」「ナプキンで対応すればいい」「加齢のせい」などと諦めず、どうか積極的に泌尿器科を訪れてください。尿失禁が命にかかわる病気ではないということは、「治したい」と思ったときが、治療のタイミングです。

週刊朝日  2014年6月27日号