人気のヨーロッパを中高年女性がひとりで歩く「ひとりっぷ」が注目されている。ツアーやグループで行くのとはひと味違う時間や風景が待っているとベテランひとりっぱーでライターの寺田和代さんはいう。

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 ツアーでは難しくても「ひとりっぷ」なら難なくできる旅の楽しみの一つは、あたり前のようだけど、行きたい所に行けることだ。

 とくに中・東欧は日本からの直行便がないか少ないせいで、遠い、不便と思われがちで、ツアーの設定も少なめだが、実際に「ひとりっぷ」してみると、想像以上に便利で旅しやすい。

 家の玄関を出てから戻ってくるまでの総額を20万円までと定めた「私のひとりっぷ」では、交通費、宿泊費などが安いのも大きな魅力。すごく大雑把に言ってしまえば物価は西欧主要都市の0.8掛けの感覚だ。

 世界遺産登録地域はもとより、全般に中世の雰囲気を残す街が多く、ロマンチック、冒険、哀愁好きの心が踊る。

 このエリアで「ひとりっぷ」初心者に真っ先にすすめるとしたらバルト3国だ。3年前にここを旅したことは、過去の旅でもっとも印象深い思い出の一つ。ヘルシンキで乗り換えたエストニアの首都タリン行きの便に自分以外の東洋人の姿はなく、心細さを含めた「ひとりっぷ」度が一気に募ったところに、出迎えてくれた男性客室乗務員がハッとするほど美しかったことも忘れられない。何を見聞きしても「ひとりっぷ」では普段よりずっと心が感じやすくなっている。

 エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国は、三つ合わせても北海道二つ分強の面積なのに、言語も通貨も雰囲気も全部違う。太い円柱に円錐の帽子をかぶせたような塔と城壁のなかに13世紀の街のたたずまいを残すタリンの旧市街、重厚でエレガントな彫刻が施されたユーゲントシュティール建築とよばれる建物群で名高いラトビアの首都リガ、カトリックのバロック建築と迷路のような小道めぐりが楽しいリトアニアの首都ヴェリニュス。

 どの街も散歩にピッタリのサイズに、それぞれの街の魅力が宝石箱みたいにギューッと詰めこまれている。

週刊朝日  2014年5月23日号より抜粋