ステレオタイプな年齢像を拒み、自分らしい生き方を追求する今の50代、60代。まだまだ先の長い人生をより元気に、より健康的に過ごす鍵となるのが、「筋力」だ。筋力維持のための、効果的なトレーニング方法を調べた。

 一般に筋トレを始める場合もそうだが、中高齢者の筋トレでは、とくに「正しいフォーム」「筋力がついてから、徐々に負荷を上げる」「知らないスポーツから始めない」ことが大事だ。自己流やいきなり過度な負荷をかけた筋トレを始めて、関節を痛めたり、ひざの軟骨をすり減らしたりしてしまえば、筋力アップが図れない。

 それどころか、痛みが出たり、動きが制限されたりすることで筋力がますます低下してしまう。名戸ケ谷病院(千葉県柏市)院長で整形外科医の大江隆史医師が中高年の筋トレ初心者に勧めているのは、ロコモティブシンドローム(運動器の障害のために移動能力が低下し、介護や支援が必要になる危険が高い状態)予防のトレーニングの代表であるスクワットだ。そのほか「階段を上る」「大股で早歩きをする」など、日常生活の運動量を上げる方法もある。

「スクワットのポイントは、“ゆっくりと自分の体重を感じながら、休まないで5~6回続けること”です。さっさと済ませては筋トレとしては有効ではありません。“筋肉が疲れている”と感じたら、それが効いている証拠です」(同)

 この「休まず、ゆっくり筋肉を動かす」という方法が筋力アップに効果的であることは、科学的にも証明されている。「スロトレ」の考案者で、最近では『スポーツのための体幹トレーニング練習メニュー200』(池田書店)の監修を務めた東京大学教授(身体運動科学・筋生理学が専門)の石井直方(なおかた)氏は、その原理をこう説明する。

「筋肉に力を入れ続けながら、ゆっくりと動かすと、筋肉の中の血流が制限され、酸素不足の状態になって急速に筋繊維が疲労します。最近の研究から、このような状態が筋力アップに重要なことがわかってきています。筋肉は高い負荷でハードな運動をしたときと同じ状態になり、筋力がアップするのです」

 筋トレというと、重いバーベルやダンベルを持ち上げて負荷をかけるものというイメージがある。ところが、石井氏の理論によれば、それほど大きな負荷をかけなくても、この「スロトレ」を心がければ、十分に筋力アップが望めるわけだ。

週刊朝日  2014年5月9・16日号より抜粋