少子高齢化、「ものづくり大国」の崩壊、進まぬ東日本大震災からの復興、消費増税による家計圧迫――。暗いニュースばかりが気になるが、日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏(49)は、既に過疎地にこそ日本の明るい未来への可能性が見えているという。
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「日本の先行きは暗い」というあなた、世のムードに流されていませんか。「アベノミクスで日本再生!」というのも、思い込み先行という点は同じです。統計数字を確認すれば、日本は落ちもせず上がりもせずに水平飛行しています。大健闘といえるでしょう。
国勢調査によれば、1週間に1時間でも仕事をしてお金を稼いでいる人は、もう日本人の半分もいません。子供や専業主婦に加え、高齢の退職者が急増しているからです。ですが機械化で生産力は落ちず、財政破綻もせず、それどころか個人の持つ金融資産は1600兆円を超えています。
東日本大震災の2011年ですら、輸出も国内の小売販売額も、ほとんど減らなかったことをご存じでしょうか。ちなみに昨年の輸出67兆円(国際収支統計)はバブル期の1.6倍で、史上第4位です。貿易赤字は、円安で輸入品が高騰した、いわば自爆の結果です。
悲観派は「GDPの成長率が低い」の一点張りですが、生産年齢人口(15~64歳の数)が20年近くも減り続けている日本と、人口が増えている国を比べれば、方向が違うのは当たり前。生産年齢人口当たりの成長率では日本が世界一という計算もあるそうです。
そんな中、冗談ですまされない最大の問題は少子化です。特に東京都の出生率が1.1というのはひどい。人口が世代ごとに半減してしまう東京に、さらに若者を集めることは、日本の衰退につながります。
むしろ過疎地にこそ明るい未来が見えています。拙著『里山資本主義』(角川oneテーマ21)でも紹介した島根県の邑南町では13年、転入者数が転出者数を20人上回りました。出生率も2.65と全国の2倍です。自然を重視する若い夫婦が移り住み、耕作放棄地を使って農業を始めているからです。
地区ごとの数字を分析すると、都会でも地方都市でもなく、過疎化が進みきった山村や離島だけに、老人の増加と子供の減少が同時に止まった地区が登場し始めています。子育て支援を最優先に掲げてきた長野県の山村・下條村では、待機児童はもちろんおらず、過去20年間で子供が微増、生産年齢人口も横ばいです。
本当は都会でも同じことは目指せるはずです。税金を子育て支援に最優先で使うことで、日本の将来はなお明るくなるでしょう。
※週刊朝日 2014年5月9・16日号