福島第一原発の作業員の死亡事故がまた、発生した。作業員の命を守る態勢は整っているのだろうか。ジャーナリストの桐島瞬氏が実態を探った。

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 原発事故後、作業員として7人目の犠牲者となったのは、東双不動産管理の下請け会社で働いていたAさん(55)。悲劇が起きたのは3月28日だった。原子炉5号機近くにある固体廃棄物貯蔵庫の復旧工事に伴い、作業班は地中に約1.7メートルの穴を掘り、基礎部分を剥がす工事をしていた。Aさんが解体作業をしていたところ、頭上のコンクリートが直撃し、下敷きになってしまったのだ。

 同僚によってすぐに救出され、構内の救急医療室(ER)に運ばれたが、東電の対応の遅れが指摘されたのは、ここからだ。第一原発の作業員が説明する。

災害が起きたのは午後2時20分。東電はその11分後に対策本部、25分後には警察へ連絡しています。ですが、救急車を要請したのは42分後となる3時2分だったのです。なぜ、こんなに遅れたのでしょうか」

 このときは偶然、付近を警戒していた救急車が13分後に駆けつけた。だが、通常ならそんな短時間では来ない。

「第一原発から救急搬送の要請があった場合、原発事故前なら富岡消防署から10分以内で到着しました。ですが、現在はいちばん近くても20キロ離れた楢葉分署から出動することになるので、早くても20分はかかります」(双葉地方広域市町村圏組合消防本部)

 さらに、患者を乗せた救急車が63キロ離れたいわき市の総合病院に到着するまで1時間以上はかかる。

 今回の事故では、搬送先の病院の医師が作業員の死亡を確認したのは、午後5時半近かった。事故発生からすでに3時間も経過。

 これでは一刻を争う事態の場合、命取りになりかねない。だが、東電には救急車の要請が遅れたとの認識はないようだ。

「第一原発内には救急病院と同様の対応ができるぐらいのERがあり、24時間、医師が常駐しています。今回も応急処置を施した上で搬送するための判断を行ったので、遅くなったとは思っていません」(東電広報部)

 負傷するなどした作業員への不備と思われる東電の対応は今回だけではない。

 一昨年8月には休憩中に心筋梗塞を起こした作業員が同僚の救命措置で一度は蘇生したものの、またすぐに容体が悪化。構内の医師もなかなか現場に到着せず、休憩所で命を落とした。

 その1週間後には作業員が手足を骨折する事故が起きた。このときは東電の担当者と30分近く連絡が取れず、病院への搬送が遅れた。

 双方ともいち早く病院へ搬送すべきと思われる事例だが、当時も東電は「対応に問題はなかった」と答えている。こうした対応に作業員は不安を募らせる。

「もし自分が作業中にけがをして、救急車を呼ぶのが遅れたために万が一のことがあったらと考えると、とても怖い。作業員の命を軽視しているとしか思えず、安心して働けません」

週刊朝日  2014年4月18日号