勝利のためには個人技より団結力――サッカーや野球の話ではない。近年、大学受験の現場で見られる現象だという。生徒の団結力が強い高校が、東大など難関大学の合格者数を伸ばしているのだ。

 聖光学院(神奈川)は今年の東大合格者数が全国高校ランキング6位の71人で、開校以来最多を記録した。私立の男子校だが、高3生の受験への取り組みは個人力ではなく“団体戦”といっていいだろう。

 教務部副部長を務める花家(はないえ)徹教諭が言う。

「7年前から、校舎に隣接したセミナーハウスが高3生の自習室としても利用できるようになりました。夜9時まで自習することができるのですが、満員になるのも決して珍しいことではありません」

 セミナーハウスの収容人員は60人。1学年は約230人のため、毎日メンバーが代わりながら、4分の1の生徒が放課後、一つ屋根の下に集まって勉強をしているのだ。

「空腹になった生徒はコンビニで弁当を買ったり、カップラーメンを作ったりしているようです。ともに学ぶだけでなく、食事をしながら語り合うことで一体感が生まれ、互いに切磋琢磨(せっさたくま)しているのでしょう」

 生徒の約6割は予備校などに通わず、学校の授業だけで受験に挑むという。学校側も補習などに力を入れており、例えば高3の夏休みには夏期講習が行われる。1講座あたりの受講費は2千円で、予備校や塾とは比較にならないほど安い設定になっている。

 次は、今年の東大合格者数が昨年の59人から75人と大幅に増加し、高校ランキングでは昨年の9位から5位に急上昇した駒場東邦(東京)。やはり私立男子校である同校の生徒たちも、“団体戦”で受験に取り組んでいるといえる。鈴木良児教頭が語る。

「本校は中高一貫校で、高校の募集は行っておらず、伝統的に生徒の結束力は強いと考えています。それでも、近年は4、5人のグループで勉強会を開く、といった高3生が増えたように思います。『みんなで過去問を解こう』という生徒が出てきたのも最近の傾向です」

 団結力の背景の一つが体育祭だ。駒場東邦の生徒は中学1年生で赤、白、青、黄の4色に分けられる。これは体育祭での「組」を表すが、クラスは変わっても生徒一人ひとりの色は6年間、全く同じなのだ。

「その影響力の強さは、70代のOBが、私の色は何色、と自己紹介するほどです。先輩と後輩だけでなく、同級生の中でも『色』を中心にしたグループが生まれます。それが受験でも反映されているのでしょう」

週刊朝日  2014年4月18日号