金融業界で「漢字力のなさ」が有名だったという“伝説のディーラー”藤巻健史氏。参院財政金融委員会での麻生太郎財務相とのやりとりについて語る。

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 11月28日に参院財政金融委員会で質問に立った。回答者は麻生太郎財務相だ。麻生さんの答弁は面白さ、的確さ、はぐらかしの切れなど抜群だ。頭がいいのだろう。しかし、漢字力のなさは私と似たり寄ったりのようだ。答弁で「景気ていまいの原因は~~」と聞こえたのだ。私は(自分のことを棚に上げて)、笑いをこらえるのに苦労した。大臣は「景気低迷」と言いたかったのだろう。「迷(めい)」と「米(まい)」には「しんにゅう」があるか否かの違いに過ぎないが。笑いをこらえながら質問を続けた。

「週刊朝日の3月8日号に『麻生財務相はきちんと国益を説明した』というコラム記事があります」

 こんな内容だ。〈「『アベノミクス』の目的は円安誘導ではない」と、きちんと国益を考え、凛として説明をされた。他国の顔色ばかりうかがって、「円安」という最大の国益を守る努力をしてこなかった歴代の指導者とは大違いだった〉。

 野党からの質問ということで渋面を作っていた麻生財務相の顔が緩んだ。すかさず、「実は、筆者は私なんです」と言ったら、さらに笑顔に変わった。

「しめた。『円安は必要』発言を引き出せる」と胸躍ったのだが、秘書官が大臣の肩をトントンとたたいてブレーキをかけ、不発に終わってしまった。「円安は最も効率的で強力な日本経済再建策だ」とは、ご存じ、20年以上にもわたる私の一貫した主張なのに。残念!

週刊朝日 2013年12月20日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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