パソコンやスマホで読める「ウェブ漫画」で異例の支持を集める作品がある。

 タイトルは「アンパンマン」ならぬ「ワンパンマン」。主人公は、襲いかかる怪人を“ワンパンチ”で倒してしまう、ツルツル頭の「サイタマ」。サイタマは就職活動に挫折した後、死に物狂いの特訓を経てヒーローになったニヒルな青年で、自身の圧倒的な強さに虚無感を抱きながらも、地球を防衛するため、仲間たちと戦いを続ける。登場人物の内省的な心の動きと爽快(そうかい)なアクションが同居する、新感覚のヒーロー漫画だ。

 2009年7月、作者のONEさん(27)は、一般人が趣味で漫画や小説を投稿するウェブサイト「新都社(にいとしゃ)」に「ワンパンマン」を掲載。すると、またたく間に話題となり、約3年間で1千万を超える驚異的なアクセス数を記録した。

 12年6月には、集英社が運営するウェブサイト「となりのヤングジャンプ」で、作画担当に村田雄介さん(35)を迎えたリメーク版の連載も開始。現在、リメーク版を書籍化した単行本は5巻で累計220万部を突破し、売り上げはまだ伸び続けているという。

 人気ウェブ漫画家の小林銅蟲(どうむ)氏は、ヒットの背景をこう分析する。

「オリジナル版の時点で、画は粗いけれども、構成やキャラ設定など、漫画としての完成度が高かった。当時、まだそれほど多くなかった、ネットでウェブ漫画を読むような人間が、お得意の“先物買い”でこれを絶賛。ネット掲示板などで大きな盛り上がりを見せたのです。その後、『ネット住民』以外の若年層にも拡散し、リメーク版につながったのだと思います」

 オリジナル版の作者であり、リメーク版では原作を担当するONEさんはその反響に驚く。

「漫画家になりたいと思ってはいたのですが、あまり持ち込みはせずに、趣味で描いていました。その流れで、新都社に投稿したのですが、新都社は漫画に理解のある熱心なユーザーがすごく多かった。だからこそ、ここまで大きな反響をいただけたのだと思います。そして、プロとして経験豊富な村田さんが『自分が作画を担当するからメジャーな媒体で一緒にやろう』と声をかけてくださいました。いろいろな方のおかげで、発表の場が広がったことは本当に光栄です」

 ネット生まれの「ワンパンマン」、これからどんな作品に成長していくのか。

週刊朝日 2013年12月20日号