相次いで発覚する食品の偽装表示問題。しかし、文筆家の北原みのり氏によると、その偽装表示はアダルトグッズにも存在しているという。連載「ニッポンスッポンポン」でこう語る。

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 食品表示偽装のニュースを見ながら、消費者としては「ひどいっ!」と怒り心頭だけど、セックスグッズ産業界にいる者としては、少しだけ羨ましい気持ちがある。偽装できることが、ではなく、偽装が社会問題になることが、である。

 20年近く前にアダルトグッズショップを始めた頃、真っ先にバイブの素材が気になった。体に直接触れるものなのに、アダルトグッズに成分表示が一切なかったから。理由を聞けば、バイブとはジョークグッズとして楽しむもので、まさか本気で使うものじゃないですよぉ~、という体(てい)で売られているからだ(今も)。

 当時、バイブの素材は安く劣悪なのが当たり前だった。バイブを二つ並べていたら、化学変化を起こし溶け合って世にも恐ろしい物体に変形していたり、陽の当たる場所に置いていると変色したりと、むしろ成分など知りたくなかった。

 一方、ヨーロッパではアダルトグッズは子供のおもちゃ同様、体に安全な素材かどうかが検査される。そうじゃないと市場に出ないのだ。必然的に私はヨーロッパバイブばかりを売るようになったのだけれど、最近は日本でも「シリコン製バイブ」など、安全な素材を売り文句にするバイブが登場しはじめた。女性のお客さんが増えてきたからだ。

 しかーし! である。バイブへの成分規制が全くない日本で(バイブは公序良俗にひっかかるので、女性が快感を得るために膣に何かを入れたり、性器をマッサージするグッズなどは公には存在しないと考えられています)、本気でシリコン製のバイブをつくっている会社は、少数派である。しかもシリコン製と言われているものの多くはシリコンではなかったりする。

 というわけで私は、日本人のほとんどが気がついていない、バイブにおける成分偽装問題という由々しき事態に、胸を日々痛めています。「これはシリコン」と言いたがるシリコン詐欺が横行する荒んだ社会……いったい誰に訴えたらいいんでしょう。

 ああ、私の夢は、いつかNHKで、セックスグッズの成分偽装問題が取り上げられること。死ぬまでに、そんな日がくればいいのに。

週刊朝日 2013年11月22日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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