自ら胃がんと前立腺がんに侵された経験を持つ東京医療保健大学副学長、前NTT東日本関東病院副院長・外科部長の小西敏郎医師(66歳)に「いい病院」「いい医師」の条件を聞いた。

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 医師の中には「不養生」を自慢する人もいますが、僕はNTTの社員でしたから、がん検診は欠かさず受けていました、60歳のときに受けた診察の後、1週間後に病理の医師から連絡が来ました。そのとき、「これはがんだ」とピンときましたね。と同時に、もし進行がんだったら、広範囲にがんがあったら……と、頭が真っ白になりました。

 担当の消化器内科医から病状の説明を受けると、直径4ミリほどの早期胃がん。内視鏡治療を受けました。治療を担当することになったのは、医師になって4年目のレジデント(研修医)。「ええ!?」と思いましたが、聞くと当院でいちばん内視鏡治療の実績があるとのこと。僕は外科医の一人として、医師の年齢より腕や実績、それに症例数を信用する。だから全面的にその医師にお任せしました。小さな早期の胃がんを見つけてくれたのも、彼でしたから。結果、治療はうまくいき、回復も順調。今まで再発もありません。

 前立腺がんが見つかったのは、その2年後です。こちらも検診で見つかりました。開腹手術を受けました。早期だったこともあり、がんは完全に取りきれた、と。再発は心配していません。

 どちらも自分が勤めていた病院で治療を受けましたが、主治医には、「患者さんにやっているのと同じ治療をしてほしい」とお願いしました。僕は消化器外科医としてこれまで2500例以上の手術で執刀してきましたが、必ず「僕や家族だったら、この治療を受ける」というやり方で治療してきた。だから、それを主治医にもお願いしたのです。

 病気になって気づいたのは、医師にとっての「たいしたことはない」は、患者にとっては「たいしたこと」だということです。

 

 実は、前立腺がん手術を受けた翌日、熱が37.4度出ました。38〜39度の熱なら合併症の疑いがあるので、気をつけますが、37度程度なら順調に回復しても出るもの。だから、それまで患者さんには「たいした熱ではないから、我慢して」と突っぱねていました。

 しかし、自分が37.4度になってみると微熱でもつらい。それがよくわかりました。我慢をさせてしまった患者さんには本当に申し訳なかったと思っています。

 僕がいい病院の条件に挙げたいのは、医師や看護師、薬剤師などの医療スタッフの質がいいか、チーム医療が成り立っているか、です。先ほどの、術後に熱が出た件でも、ベッドサイドにいる看護師が患者のつらさをくみ取ってそれを担当医に伝えなければ、適切な対応もできません。

 チーム医療の質は外来でもわかります。「スタッフ同士のコミュニケーションが取れていない」とか、「看護師が医師に遠慮している」とか、そういう雰囲気があったらダメ。いくら名医がいる病院でも、チーム医療は成り立たない。別の病院を受診することをお勧めします。

 もう一つ大事なのは、目の前の医師を信じること。がんの種類や進行度によっては、治療法が一つしかない場合もあれば、複数の中から選択できる場合もある。まさに後者の代表的なものが前立腺がんでしょう。僕は医師として知識もあったし、専門医から意見を聞く機会もあった、しかし、やはり最終的には主治医を信頼し、開腹手術を受けることにしました。

 信頼できる医師に出会うのは簡単ではないかもしれません。しかし、かかりつけの医師に相談したり、セカンドオピニオンを取ったりして、自分で治療について理解して判断するための行動を起こすことが大事なのです。

週刊朝日  2013年10月18日号