今年5月、アンジェリーナ・ジョリーが乳がん予防のために乳房を切除したことが、大きな反響を呼んだが、実際にがんが発症した場合、その切除手術には二つの方法があるという。

 乳がんの手術には、がんとそのまわりだけを切除し、乳房自体を残す「乳房部分切除術(温存)」と、乳房全体を切除する「乳房切除術(全摘)」がある。がんが一部にとどまっている早期がんでは、温存と全摘のどちらを選ぶことも可能だ。

 では、いったい患者は今、どちらを選ぶのだろうか。

「以前は温存を希望する患者さんが多かったのですが、全摘を望む方が徐々に増えてきています」(順天堂大学順天堂医院乳腺科教授の齊藤光江医師)

 なぜ、患者は全摘を希望するのか、その理由を齊藤医師はこう指摘する。

「まず、温存しても乳房が望んだような形にならないことがあり、さらに局所再発する確率が全摘より高い。それがわかって温存をやめるケースがあります。画像診断の進歩で温存後の乳房の形をシミュレーションできるようになり、『そんなに変形するなら全摘したほうがよい』と考える人も増えています。その背景には、乳房再建の満足度が高くなって、全摘後に乳房が戻る可能性に安心感が生まれたことが大きな要因です」

 それに加え、温存の場合には放射線治療が必須となるが、将来、乳房内にがんが再発した場合、一度、放射線をかけた乳房の皮膚は伸びが悪くなるため、インプラント(人工乳房)を入れる乳房再建ができにくくなってしまう。こうした情報も踏まえて、患者が治療法を検討するようになったという。

 ところで、温存はどのように実施され、乳房の形はどう変わるのか。齊藤医師は言う。

「温存では切除した部分に、残った乳腺組織をもってきて修復します。えぐれた乳房をイメージしているとしたら、間違いです。全体のボリュームが減り、表現は適切ではないかもしれませんが、丸みを帯びた“肉まん形”が、少し先がとがった“甘食形”になるような感じです。ただ、乳房は左右にあり健康な側とのバランスが重要。温存の後の形に納得される方も多いのですが『こんなはずじゃなかった』と思う人もいます」

 こうした温存の技術は、外科医のセンスと事前の緻密な計画がものをいう。いずれにしても、温存と全摘、二つの選択肢について説明を受け、自分が最もよいと思う方法を選ぶに越したことはない。

週刊朝日  2013年9月20日号