普段、当たり前のように調味料として使っている砂糖。料理研究家の柳谷晃子氏は、その砂糖の効能や地域による味の表現の違いを紹介する。

*  *  *

 奈良時代後期に唐から伝わった砂糖は、江戸時代まで薬として珍重されました。貴重な砂糖をたっぷり使えることは豊かさの証明。だから江戸料理には砂糖と醤油がたくさん使われました。その流れを汲む現代の江戸懐石も濃い味です。

 砂糖には含蜜糖(がんみつとう)と分蜜糖(ぶんみつとう)の、二つのグループがあります。含蜜糖には原料のミネラル分がそのままの黒砂糖、分蜜糖には精製度が高い上白糖やグラニュー糖、三温糖、氷砂糖などが含まれます。日本で「お砂糖」といえば、まず上白糖を思い浮かべると思いますが、世界的な消費量ではグラニュー糖が一番多いんです。

 砂糖には甘みをつけるだけでなく、さまざまな効果があります。お肉を軟らかくしたり、酸化や腐敗を防いだり、乾物を短時間で戻せたりします。ケーキ作りで使う卵白やホイップクリームの泡立ちを安定させたり、果物を煮詰める時にとろみを出したりする役割もあります。目的や用途に合わせて砂糖の種類を選ぶといいですね。

 脳のエネルギー源になれるのはブドウ糖だけなんです。消化吸収が早い砂糖はどんな食べ物より脳の働きをよくするのに適しています。精神的にリラックスさせる効果もあるので、うまく取り入れてください。

「甘い」と「うまい」にはおもしろいつながりがあります。砂糖の味覚表現は、「甘い」が圧倒的で、各地に「あめえ」「あまこい」「あまか」などの方言があります。これに対して東北北部と鹿児島、奄美、沖縄では、「甘い」ことを「うまい」「んまい」「うまか」「んまか」と言います。日本の北と南に「うまい」文化圏があるんです。塩味が足りないことを「あまい」と言う地域もあります。これは「詰めがあまい」や「脇があまい」の「あまい」から来ています。

 さて、私の義母は戦時中、長野県の小諸に疎開していました。当然のことながら、砂糖は簡単に手に入るものではありませんでしたが、子どもながらに朝から晩まで奉仕活動にかり出され、ヘトへトに疲れてどうしても甘いものが欲しい。そこで、西瓜(すいか)の果肉を煮詰めて西瓜糖を作り、これを舐めるのが唯一の楽しみだったと、懐かしそうに話してくれました。つらかった日々の慰めだったんですね。私は毎年夏になると西瓜糖を作りますが、利尿作用があるため、腎臓の薬になると言われています。夏は腎臓障害が起こりやすい季節ですから、季節の食べ物を健康に活かす、昔の人の知恵を感じます。

週刊朝日  2013年8月30日号