プロゴルファーの丸山茂樹氏は、アメリカの選手の感覚の違いについて、違和感を覚えることがあるという。

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単独首位の選手が、家庭の事情で途中棄権する――。ハンター・メーハン(31)がカナディアン・オープン(7月25~28日)でとった行動に、日本のみなさんは驚かれたかもしれません。でもアメリカの選手なら、十分にありうることなんです。

今季初勝利を目指していたメーハンは、第2ラウンドを終えて13アンダーで単独首位に立ちました。第3ラウンドのスタート前、彼は、第1子の出産間近だった妻カンディの陣痛が始まり、病院へ運ばれたとの知らせを耳にした。そしてすぐに棄権を決め、地元の米テキサス州ダラスへ向かったのです。結果的に、妻の頑張りと女児の誕生を見届けることができました。

僕は2000年から9年間、米PGAツアーを主戦場にしてきましたけど、日本との文化の違いを感じることはたくさんありました。トップ10圏内にいても、奥さんの出産やなんかで棄権するケースはザラです。

フィル・ミケルソン(43)は、とくに家族を大事にする選手として知られています。彼は妻のエイミーが最初の出産を控えていた1999年の全米オープンで、ポケベルを携帯して最終ラウンドの優勝争いに臨んでいたんです。

「エイミーの身に何かあったら、僕はたとえ優勝が目の前まで来ていても、すぐに棄権して彼女のもとへ駆けつける」

そう言っていたらしいですね。結局ポケベルは鳴らず、ミケルソンは優勝を逃した。妻は翌日の月曜日に無事、第1子を出産しました。ミケルソンは今年6月の全米オープンの直前にも、娘の卒業式に出席するため、自家用ジェット機でとんぼ返りしました。

家族をツアーに帯同させた上に、子どもの家庭教師まで帯同させる選手も結構いましたよ。義務教育だろうが一切学校へは通わせず、「チャーター先生」に教えてもらうんです。すごいでしょ?

今回のメーハンの一件も、アメリカのテレビ番組のトークショーなんかでは、「素晴らしい」と称賛を受けたんでしょうね。

ただ僕は、そういう行為にはあまり魅力を感じない。スポーツ選手としたら、最後まで戦ってほしい。それを踏まえた上で結婚してるはずだしね。僕自身も、そういうスポーツ選手の宿命みたいなものを理解してくれる人と結婚するって決めてましたしね。家族が死を迎えるっていう訳じゃないんでね。まあ、文化の違いと言ってしまえばそれまでで、何が正しいという問題でもないんですけどね。

メーハンは次の試合のブリヂストン招待も、家族と一緒にいるために欠場しました。これにはちょっと違和感を持ちましたね。与えられた時間って、そんなにある訳じゃないですからね。PGAツアーで5勝。今季は全米オープン4位、全英オープン9位ときてる。言ってみれば、いま一番いいときですからね。

もしタイガー・ウッズがメーハンと同じ状況だったら、棄権しなかったような気がするけど、どうかなあ? こればっかりは分かんないですね。

普通の出産なら、試合が終わって駆けつければいい。僕はそう思ってます。人の命にかかわること以外なら、仕事を優先します。

※週刊朝日 2013年8月30日号

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丸山茂樹

丸山茂樹

丸山茂樹(まるやま・しげき)/1969年9月12日、千葉県市川市生まれ。日本ツアー通算10賞。2000年から米ツアーに本格参戦し、3勝。02年に伊澤利光プロとのコンビでEMCゴルフワールドカップを制した。リオ五輪に続き東京五輪でもゴルフ日本代表監督を務めた。セガサミーホールディングス所属。

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