満島ひかり主演ドラマ「Woman」にみる母親としての苦悩 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)
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満島ひかり主演ドラマ「Woman」にみる母親としての苦悩

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週刊朝日#ドラマ

 心理学者の小倉千加子氏が、今季話題のドラマ「Woman」(日本テレビ系)のテーマである、母親の苦悩について語る。

*  *  *
 ボーヴォワールに『おだやかな死』という作品がある。母親が大腸がんと診断されてから亡くなるまでのことを書いた小品である。タイトルからしてお母さんは穏やかに亡くなったのだと想像してしまうが、全然そうではない。しかも最期の時にはボーヴォワールは仕事で病院にはおらず、妹さんから断末魔の恐ろしさを知らされる。

 ボーヴォワールは終始一貫母親に対して距離があって、母親は本を書く娘に嫉妬していたと書いている。そういう恨みが母親の最晩年に冷淡さとして現れたのだとしても何となく不愉快である。母親は「母親的なもの」の機能が不十分であった対象として表現されているのであって、「母親として」つまり主体として表現されているわけではない。

 これでは無言でいるお母さんが気の毒だと思ったのは私だけではないらしい。「ボーヴォワールは、サルトルに母親的役割を許したために、ボーヴォワール自身の母親をさらに徹底して抑圧する結果をもたらした」(アリス・ジャーディン『執筆するカップ』)。お母さん本人が生きていれば、娘の批判に「母親として」どう回答しただろう。

 子どものいる社会人学生の女性たちに「母親として今一番苦しいことは何ですか」という質問に回答してもらったことがある。

「思春期になった娘に、知らず知らずのうちに自分の価値観を押し付け、その期待に沿えずに苦しんで泣き叫んでいる娘に対して、さらに追い詰めるような言動をしていた自分を初めて知った時はとても悲しかったし、苦しかった」

「子どもはあらゆる分野において質問を投げかけてくるのに、親として正確に返答できているのかと不安になったり、実際に分からないことが沢山あったりして、自分に全く自信のないことが苦しい」

「娘は頑張っていい大学に入ったのに就職先が見つからないことを、自分が周囲の人から子どもの就職先も見つけられないのかと思われているようで苦しい。自分は世間を何も知らず、何の情報もないことに打ちのめされる」

「子どもは6歳と3歳で、幼児期に精一杯のことをしてやりたいと思っている半面、自分の人生も手遅れにならないうちに早く自己実現したい、自分らしく生きたいという欲求が強く、この二つの欲求を両立させるのが難しいことに激しい孤独と不安を感じている」

 現在日本テレビで放送中のドラマ「Woman」もまた、母親としての女性の苦悩を描いたものである。主人公である母親(満島ひかり)は夫を亡くし、2人の子どもを育てている。満島には子どもの時に別れた母親(田中裕子)がいる。田中は夫にDVを受けていたため、家を出て新たな家庭を営んでいる。夫(小林薫)は仕立屋だったが今は生活を妻に委ねて働かない。満島は母親のもとに苦しみを訴えに来るが、母の反応が求めていたものと違うことに怒りだす。今の夫との間にできたもう一人の娘(二階堂ふみ)は美大受験の浪人生である。この娘も学校でいじめられていたこと、美術の才能に自信がないこと、異父姉に嫉妬していること、義兄の死に関与してしまったことを母親に訴える。聞いている田中は茫然としている。完璧な回答と癒やしを、母親という女性の役割として即座に与えなくてはならないのだろうか。

 娘の満島も子どもといる時、4歳の息子に夢中になって7歳の娘を忘れている。「お風呂のお湯、どうするの?」「止めてきて」。

 母(mother)を他人(other)にしないよう気を遣う娘である。

週刊朝日  2013年8月9日号


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